相続税で控除できる債務・できない債務

はじめに
相続税は、亡くなった方(被相続人)から相続した財産の価額から、被相続人の借入金や未払金などの債務を差し引いた金額をもとに計算します。これを「債務控除」といいます。
ただし、被相続人に関係する支払であれば何でも差し引けるわけではありません。控除できるのは「被相続人が亡くなったときに現に存在し、確実と認められる債務」に限られます。お墓の未払代金や、団体信用生命保険で返済が免除される住宅ローンのように、控除できない債務もあります。
この記事では、相続税法・相続税法基本通達・国税庁タックスアンサーをもとに、控除できる債務とできない債務を整理します。なお、葬式費用は債務ではありませんが、債務と同じく遺産総額から差し引くことができます(葬式費用については別の記事で解説しています)。
1. 債務控除を受けられる人
債務控除を受けられるのは、相続人と包括受遺者です。ただし、日本国内に住所があるかどうかなどによって、控除できる債務の範囲が異なります。
| 取得した人 | 控除できる債務 |
|---|---|
| 相続人・包括受遺者(日本国内に住所がある人など、無制限納税義務者) | 被相続人の債務で、相続開始の際に現に存するもの(公租公課を含む) |
| 相続人・包括受遺者(日本国内に住所がなく、国内財産のみが課税対象となる制限納税義務者) | 国内財産に係る公租公課、その財産を担保とする債務、その財産の取得・維持・管理のための債務、国内の営業所・事業所に係る債務などに限られる |
| 相続を放棄した人 | 控除できない(葬式費用を実際に負担した場合を除く) |
| 相続人でない特定受遺者 | 控除できない |
| 相続時精算課税を適用している相続人 | 控除できる |
【注意】相続を放棄した人は、死亡保険金などを受け取っていても、被相続人の借入金などを債務控除することはできません。相続を放棄すると、法律上は最初から相続人ではなかったものとみなされ、債務を承継しないためです。
根拠:相続税法1条の3、13条1項・2項、21条の15、21条の16、相続税法基本通達13-1、13-9/民法939条(相続の放棄の効力)
2. 控除できる債務
控除できる債務は、次の2つの要件を満たすものです。
- 被相続人が亡くなったときに現に存在する債務であること
- 確実と認められる債務であること
「確実と認められる」かどうかは、借用証書などの書面があるかどうかだけで決まるものではありません。また、金額がまだ確定していなくても、債務が存在することが確実であれば、相続開始のときの現況で確実と認められる範囲の金額を控除できます。
| 債務の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 借入金 | 金融機関からの借入金(アパートローンなど)、親族や知人からの借入金 |
| 未払金 | 亡くなる前の入院費・治療費の未払分、クレジットカードの未払分、公共料金・家賃の未払分 |
| 事業上の債務 | 個人事業の買掛金・未払金 |
| 預かっている金銭 | 賃貸物件の入居者から預かっている敷金・保証金(退去時に返すもの) |
| 公租公課 | 未納の所得税・住民税・固定資産税など(次の3章を参照) |
根拠:相続税法13条1項1号、14条1項、相続税法基本通達14-1
3. 未納の税金(公租公課)の取扱い
被相続人が納めるべきだったのに、まだ納めていない税金は、債務として控除できます。亡くなったときに税額が確定していなくても、亡くなった後に相続人が納めることになった被相続人の所得税などは控除の対象です。
| 税金 | 控除 | ポイント |
|---|---|---|
| 準確定申告で納める所得税・復興特別所得税・消費税 | できる | 亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得に係る税金 |
| 亡くなった年の住民税 | できる | 納税通知書が亡くなった後に届いても、未納分は控除できる |
| 亡くなった年の固定資産税 | できる | 同上 |
| 未納の源泉所得税・消費税など | できる | 相続開始のときに未納のもの |
| 相続人の責任で発生した延滞税・利子税・加算税 | できない | 準確定申告の期限後の申告など、相続人の責任で発生したもの |
【注意】住民税や固定資産税は、亡くなった後に納税通知書が届くことが多く、控除を漏らしやすい債務です。国税庁も「誤りやすい事例」として、納税通知書が届いていなかったことを理由に申告書第13表に記入しなかった例を挙げています。亡くなった年の未納分は、納付書を確認して忘れずに控除しましょう。
根拠:相続税法13条1項1号、14条2項、相続税法施行令3条、相続税法基本通達13-8
4. 控除できない債務
次のようなものは、債務控除の対象になりません。
| 債務・費用 | 控除できない理由 | 根拠 |
|---|---|---|
| 生前に購入した墓地・墓石・仏壇などの未払代金 | 墓地や仏壇は非課税財産であり、その取得のための債務は控除できない | 相法13条3項、相基通13-6 |
| 団体信用生命保険で返済が免除される住宅ローン | 保険金で返済され、相続人が支払う必要のない債務 | 相法14条1項(国税庁「誤りやすい事例⑬」) |
| 保証債務 | 主たる債務者が返済すれば負担がなく、確実な債務とはいえない(例外あり、5章を参照) | 相基通14-3 |
| 相続開始のときに消滅時効が完成している債務 | 確実と認められる債務に当たらない | 相基通14-4 |
| 相続財産に関する費用(相続財産の管理費用や遺言執行の費用など) | 被相続人の債務ではなく、相続開始後に生じる費用 | 相基通13-2、民法885条 |
| 相続人の責任で発生した延滞税・加算税など | 被相続人の債務ではない | 相法14条2項、相令3条 |
【注意】団体信用生命保険付きの住宅ローンは、金融機関から残高証明書が届くため、債務として計上してしまう誤りが多いものです。保険金で完済されるローンは控除できません。また、墓地や仏壇は、生前に代金を支払い終えておくことで初めて相続財産を減らす効果があります。代金が未払いのままだと、その債務は控除できません。
なお、相続税の申告を依頼した税理士の報酬なども、相続開始後に相続人が負担する費用であり、被相続人が亡くなったときに存在していた債務ではないため控除できません。
根拠:相続税法13条1項1号・3項、14条1項・2項、相続税法施行令3条、相続税法基本通達13-2、13-6、14-3、14-4
5. 保証債務・連帯債務の取扱い
被相続人が他人の借入金の保証人になっていた場合や、他の人と一緒に連帯して借入れをしていた場合は、次のように取り扱います。
| 債務 | 原則 | 例外的に控除できる場合 |
|---|---|---|
| 保証債務 | 控除できない | 主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証債務者がその債務を履行しなければならず、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合は、その弁済不能の部分の金額 |
| 連帯債務 | 被相続人の負担部分が明らかな場合は、その負担部分の金額を控除 | 他の連帯債務者に弁済不能の人がいて、求償しても返還を受ける見込みがなく、その人の負担部分も負担せざるを得ない場合は、その金額も控除 |
【注意】保証債務の例外は、主たる債務者が弁済不能であることが客観的に明らかな場合に限られます。主たる債務者が返済を続けている場合や、将来弁済不能になるかもしれないという程度では、控除できません。たとえば、被相続人が自分の会社の借入金の連帯保証人になっていた場合も、会社が返済を続けているのであれば控除の対象にはなりません。
根拠:相続税法14条1項、相続税法基本通達14-3
6. 債務を負担する人と申告書への記載
債務控除は、その債務を実際に負担する人が、負担する金額を自分が取得した財産の価額から差し引きます。誰がどの債務を引き継ぐかは、遺産分割協議などで決めます。
| 状況 | 控除する金額 |
|---|---|
| 遺産分割協議などで負担する人が決まっている | 各人が実際に負担する金額 |
| 申告の時点で負担する人が決まっていない | 法定相続分(包括受遺者は包括遺贈の割合)に応じた金額 |
| 負担する債務が自分の取得した財産を超える | 超えた部分は、他の相続人などの課税価格から控除して申告することが認められる |
控除する債務は、申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」に、債務の種類や債権者、金額と、負担する人ごとの金額を記載します。
【注意】遺産分割協議で特定の相続人が借入金を引き継ぐと決めても、それは相続人の間での取り決めです。金融機関などの債権者は、他の相続人にも法定相続分に応じて請求できます。債権者との関係でも特定の相続人だけが負担するには、債権者の承諾などの手続が必要です。
【相続の放棄・限定承認】借入金が財産より多い場合は、相続の放棄や限定承認を検討できます。どちらも原則として、自分が相続人になったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
根拠:相続税法13条1項、相続税法基本通達13-3/民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)、915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
7. 根拠法令・通達
| 項目 | 根拠法令・通達 |
|---|---|
| 債務控除(無制限納税義務者) | 相続税法13条1項 |
| 債務控除(制限納税義務者) | 相続税法13条2項 |
| 非課税財産の取得等のための債務 | 相続税法13条3項、相続税法基本通達13-6 |
| 確実と認められる債務 | 相続税法14条1項、相続税法基本通達14-1 |
| 公租公課 | 相続税法14条2項、相続税法施行令3条、相続税法基本通達13-8 |
| 相続を放棄した人の債務控除 | 相続税法基本通達13-1 |
| 相続財産に関する費用 | 相続税法基本通達13-2、民法885条 |
| 負担に属する部分の金額 | 相続税法基本通達13-3 |
| 相続時精算課税適用者の債務控除 | 相続税法21条の15、21条の16、相続税法基本通達13-9 |
| 保証債務・連帯債務 | 相続税法基本通達14-3 |
| 消滅時効の完成した債務 | 相続税法基本通達14-4 |
| 相続の放棄・限定承認 | 民法915条、939条 |
参考(国税庁)
- No.4126 相続財産から控除できる債務
- No.4126 相続財産から控除できる債務(Q&A・保証債務)
- 相続税法基本通達 第13条《債務控除》・第14条関係
- 誤りやすい事例⑫ 未納の固定資産税・住民税
- 誤りやすい事例⑬ 団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン
- No.4129 相続財産から控除できる葬式費用
8. まとめ
- 控除できるのは、被相続人が亡くなったときに現に存在し、確実と認められる債務です。借入金や未払の医療費、預かっている敷金などが対象です。
- 亡くなった年の住民税・固定資産税や、準確定申告で納める所得税も、未納分は控除できます。
- 墓地・仏壇の未払代金、団体信用生命保険で完済される住宅ローン、消滅時効が完成した債務は控除できません。
- 保証債務は原則として控除できませんが、主たる債務者が弁済不能で求償もできない場合は、その部分を控除できます。
- 制限納税義務者や相続を放棄した人は、控除できる債務が限られたり、控除できなかったりします。
当事務所では、債務の洗い出しや控除できるかどうかの判断を含めて、相続税申告をサポートしております。借入金や保証債務がある場合も、お気軽にご相談ください。
※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別のご事情により取扱いが異なる場合があります。








