小規模宅地等の特例「家なき子特例」とは?

はじめに
親と同居していない子どもでも、一定の要件を満たせば、親の自宅の敷地を相続したときに評価額を330㎡まで80%減額できます。これがいわゆる「家なき子特例」です。
たとえば評価額5,000万円(200㎡)の自宅敷地でこの特例が使えると、評価額は1,000万円になります。一方で、平成30年度の税制改正で要件が厳しくなっており、判定を誤ると大きな追徴になりかねません。
この記事では、家なき子特例の位置づけ、被相続人と取得者の要件、老人ホームに入所していた場合の扱い、根拠条文・通達をまとめて解説します。
1. 特定居住用宅地等の「家なき子」とは?
「家なき子」とは、被相続人と同居していない親族のうち、自分や身内の持ち家に住んでいない人を指す通称です。法令上の用語ではなく、租税特別措置法第69条の4第3項第2号ロに定める取得者をこう呼んでいます。
被相続人の自宅の敷地が「特定居住用宅地等」になるのは、次のいずれかの人が取得した場合です。
| 取得者 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 要件なし(取得すれば適用可) |
| 同居していた親族 | 相続開始の直前から申告期限まで引き続きその家屋に居住し、宅地等を保有 |
| 家なき子 | 配偶者も同居相続人もいないことなど、次の章の要件をすべて満たす |
家なき子特例は、「親が一人暮らしで、子どもは賃貸住宅や社宅に住んでいる」といったケースを想定しています。子どもが将来その家に戻って住む可能性を考慮して設けられた特例です。適用されると、配偶者や同居親族と同じく限度面積330㎡、減額割合80%です。
家なき子は、取得後にその家に住む必要はありません。求められるのは、相続税の申告期限まで宅地等を保有し続けることです。
2. 被相続人の要件と取得者の要件
家なき子特例を使うには、被相続人側の2つの要件と、取得者側の4つの要件をすべて満たす必要があります。
被相続人の要件
| 要件 | ポイント |
|---|---|
| ① 被相続人に配偶者がいないこと | 配偶者がいれば、配偶者が取得しなくても家なき子は使えません。 |
| ② 同居していた相続人がいないこと | 相続開始の直前に被相続人の居住用家屋に住んでいた相続人がいないこと。相続の放棄があっても、放棄がなかったものとして判定します。 |
「居住していた」とは、相続開始の直前にその家屋で被相続人と共に起居していたことをいいます(措通69の4-21)。一時的に実家に戻っていただけでは、同居とはされない場合があります。
取得者の要件
| 要件 | ポイント |
|---|---|
| ③ 相続開始前3年以内に、自分・自分の配偶者・自分の3親等内の親族・自分と特別の関係がある法人が所有する国内の家屋に住んだことがないこと | 賃貸住宅や一般の勤務先の社宅は問題ありません。配偶者の親の家や、自分が経営する同族法人の社宅に住んでいた場合は対象外です。被相続人の居住用家屋は除かれます。 |
| ④ 相続開始時に住んでいる家屋を、過去に一度も所有したことがないこと | 持ち家を売ってそのまま賃貸で住み続ける場合などは対象外です。 |
| ⑤ 相続開始時から申告期限まで宅地等を有していること | 申告期限前に売却すると適用できません。居住は求められません。 |
| ⑥ 居住制限納税義務者・非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと | 海外在住の日本国籍の子どもは適用の可能性があります。 |
③の「配偶者」「3親等内の親族」は、相続開始の直前の関係で判定します(措通69の4-22)。また、取得者は相続人に限らず、遺言で取得した孫などの親族でも構いません。
【平成30年度改正】③の「3親等内の親族・特別の関係がある法人」と④は、平成30年4月1日以後の相続から追加されました。持ち家を親族や同族法人に移して「家なき子」になるような使い方を防ぐための改正です。改正前の要件で判定できる経過措置(措通69の4-22の2)はすでに終了しています。
3. 被相続人が老人ホームに入所していた場合の取り扱い
被相続人が老人ホームに入所し、自宅が空き家のまま亡くなった場合でも、次の要件を満たせば、入所前の自宅の敷地は「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」として扱われます(措法69の4①、措令40の2②③)。その結果、家なき子特例も使えます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 要介護認定等 | 相続開始の直前に、要介護認定・要支援認定または障害支援区分の認定を受けていたこと |
| 入所先 | 認知症高齢者グループホーム、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、障害者支援施設など |
| 入所後の自宅の使い方 | 入所後に、事業の用や、被相続人等以外の人の居住の用に供されていないこと |
判定のポイント
- 要介護認定等は、入所時ではなく相続開始の直前に受けていたかどうかで判定します(措通69の4-7の3)。入所時に元気でも、亡くなる前に認定を受けていれば要件を満たします。
- 要介護認定の申請中に亡くなり、相続開始後に認定が出た場合も、認定の効力が申請日にさかのぼるため、要件を満たすとされています(国税庁質疑応答)。
- 入所後に自宅を人に貸したり、子ども家族が新たに住み始めたりすると、原則として特例は使えません。ただし、入所前から生計を一にして同居していた親族が引き続き住んでいる場合は、問題ありません。
家なき子特例との関係
老人ホームに入所していた場合、「同居していた相続人がいないこと」は入所前の自宅を基準に判定します。入所前の自宅に相続開始の直前まで住んでいた相続人がいる場合は、他の子どもが家なき子特例を使うことはできません。
たとえば、母が一人暮らしの後、要介護認定を受けて有料老人ホームに入所し、自宅が空き家のまま亡くなったケースを考えます。父がすでに亡くなっており、賃貸住宅に住む長男が自宅を相続する場合、長男が前の章の要件を満たせば家なき子特例を適用できます。
その他の重要項目
申告要件と分割要件
- 特例を使って税額がゼロになる場合でも、相続税の申告書の提出が必要です。申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付します。
- 対象の宅地等は、原則として申告期限までに遺産分割されている必要があります。間に合わない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、分割後に更正の請求で適用を受けられます(措通69の4-26)。
家なき子の添付書類
| 対象 | 主な添付書類 |
|---|---|
| 家なき子が取得した場合 | 相続開始前3年以内の住所・居所がわかる書類(戸籍の附票など)、その家屋が自分や配偶者などの所有でないことを証する書類(賃貸借契約書など)、現在の住まいを所有したことがないことを証する書類(家屋の登記事項証明書など) |
| 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合 | 被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始日以後に作成されたもの)、介護保険の被保険者証の写しなど、施設の入所契約書の写しなど |
よくある注意点等
- 配偶者がいる場合:配偶者が別居していても、配偶者がいるだけで家なき子特例は使えません。
- 配偶者の実家に住んでいる:義理の親は3親等内の親族に当たるため、その家に住んでいた場合は対象外です。
- 同族会社の社宅:自分や親族が過半を持つ会社の社宅は、「特別の関係がある法人」の家屋として対象外になります。
- 直前の対策は効きにくい:「3年以内」「過去に所有したことがない」という要件があるため、相続直前に持ち家を手放しても要件を満たすことは困難です。
- 相続税実務での検証:3年間の住所の履歴や家屋の所有者は、登記や戸籍の附票で必ず確認しましょう。
4. 根拠条文・通達
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 租税特別措置法第69条の4第1項・第2項 | 小規模宅地等の特例の本体、限度面積と減額割合 |
| 租税特別措置法第69条の4第3項第2号ロ | 家なき子の要件 |
| 租税特別措置法施行令第40条の2第2項・第3項 | 老人ホーム等に入所していた場合の要件 |
| 租税特別措置法施行令第40条の2 | 「特別の関係がある法人」の範囲など |
| 租税特別措置法施行規則第23条の2 | 添付書類 |
| 措通69の4-7 | 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲 |
| 措通69の4-7の3 | 要介護認定等の判定時期(相続開始の直前で判定) |
| 措通69の4-21 | 被相続人の居住用家屋に居住していた親族の範囲 |
| 措通69の4-22 | 「当該親族の配偶者」等の意義 |
| 措通69の4-22の2 | 平成30年改正法附則による特定居住用宅地等に係る経過措置 |
| 措通69の4-26 | 申告期限後に分割された場合の特例の適用 |
参考(国税庁の公表資料)
- タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 措置法通達 第69条の4関係
- 質疑応答事例「老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例」
- 質疑応答事例「老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例」
まとめ
- 家なき子特例は、配偶者も同居相続人もいない被相続人の自宅敷地を、持ち家のない親族が取得した場合に、330㎡まで80%減額できる特例です。
- 取得者は、相続開始前3年以内に自分や身内・同族法人の持ち家に住んでおらず、現在の住まいを所有したことがないことが必要です。
- 被相続人が老人ホームに入所していても、要介護認定等などの要件を満たせば適用できます。
- 税額がゼロでも申告が必要で、申告期限まで宅地等を保有し続ける必要があります。
家なき子特例は減額効果が大きい一方で、要件の判定には過去3年間の住まいや所有関係の確認が欠かせません。
適用できるか迷ったら、早めに専門家にご相談ください。
当事務所では、小規模宅地等の特例の適用判定を含む相続税の試算や申告、生前の相続対策のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年9月時点の法令・通達に基づいています。個別のご事情により取扱いが異なる場合があります。




