相続で取得した有価証券の評価方法(上場株式・公社債・投資信託など)

有価証券

はじめに

亡くなった方が証券口座で保有していた上場株式、債券、投資信託などの有価証券も、相続税の課税対象です。有価証券は、種類ごとに財産評価基本通達(以下「評価通達」)で評価方法が定められています。

たとえば上場株式は、相続開始日の株価だけでなく、相続開始月・その前月・前々月の月平均額も比較して、最も低い価額で評価できます。一方、投資信託は解約した場合に受け取れる金額で評価するなど、種類によって考え方が異なります。証券会社の残高証明書の金額をそのまま使うと、評価額を高く申告してしまうこともあります。

本記事では、取引相場のない株式(非上場株式)以外の有価証券について、種類ごとの評価方法を根拠通達とあわせて整理します。取引相場のない株式の評価は、別記事で解説します。

1. 有価証券の評価の全体像

種類 評価方法(概要) 評価通達
上場株式 課税時期の終値と、課税時期の属する月以前3か月間の各月の終値の月平均額のうち、最も低い価額 169~172
外国の取引所に上場している株式 上場株式に準じて評価し、円換算する 4-3、169
上場投資信託(ETF)・上場REIT 上場株式に準じて評価 199、213
利付公社債 終値・平均値・発行価額などに、源泉所得税相当額控除後の既経過利息を加算 197、197-2
割引発行の公社債 終値・平均値、または発行価額に割引額を期間按分して加算 197-3
個人向け国債 課税時期に中途換金した場合の支払額 197-2
転換社債型新株予約権付社債 終値等に既経過利息を加算、または株価と転換価格から計算 197-5
証券投資信託(MMF・MRFなど日々決算型) 基準価額×口数+未収分配金−源泉徴収相当額−解約手数料等 199(1)
証券投資信託(その他) 基準価額×口数−解約時の源泉徴収相当額−信託財産留保額・解約手数料 199(2)
貸付信託受益証券 信託銀行等が課税時期に買い取るとした場合の金額 198

【注意】ここでいう「課税時期」は、相続の場合は被相続人が亡くなった日(相続開始日)です。申告の時点や名義変更の時点の価格ではありません。

根拠:相続税法22条、財産評価基本通達4-3、168~172、197~199、213

2. 上場株式

(1)4つの価額のうち最も低い価額で評価する

上場株式(金融商品取引所に上場されている株式)は、次の4つの価額のうち、最も低い価額で評価します。

比較する価額 内容
① 課税時期の最終価格 相続開始日の終値
② 課税時期の属する月の月平均額 相続開始月の毎日の終値の平均額
③ その前月の月平均額 相続開始月の前月の毎日の終値の平均額
④ その前々月の月平均額 相続開始月の前々月の毎日の終値の平均額

国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式は、納税義務者が選択した取引所の価格を使います。月平均額は、日本取引所グループなどが公表しているほか、証券会社に依頼すると「相続税評価額」を記載した残高証明書を発行してもらえる場合もあります。

(2)計算例

10月20日に相続が開始し、A社株式を1,000株保有していた場合

項目 1株当たりの価額
① 10月20日の終値 2,500円
② 10月の月平均額 2,450円
③ 9月の月平均額 2,400円
④ 8月の月平均額 2,550円
評価額 最も低い③ 2,400円 × 1,000株 = 240万円

相続開始日の終値で評価すると250万円ですが、月平均額を使うことで評価額が10万円下がります。

(3)課税時期に終値がない場合

相続開始日が土日祝日などで取引がない場合は、課税時期の前日以前と翌日以後の終値のうち、課税時期に最も近い日の終値を使います。最も近い日が前後に2つある場合は、その平均額です。ただし、前後の日の間に権利落ち・配当落ちが関係する場合は、別の取扱いがあります。

(4)権利落ち・配当落ちがある場合

課税時期が、株式の割当てなどの権利落ちの日から基準日までの間にある場合や、過去3か月の間に権利落ち・配当落ちがある場合には、終値や月平均額を調整する特例があります(評価通達170、172)。株式分割や増資があった銘柄は、単純に月平均額を比べると誤りになるため注意が必要です。

【注意】月平均額を使えるのは、相続や通常の贈与で取得した場合です。負担付贈与や、個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式は、課税時期の終値で評価します。

【注意】単元未満株(端株)や、株主名簿に残ったままの株式も相続財産です。証券口座にない「特別口座」で管理されている株式もあるため、株主名簿管理人(信託銀行など)への確認も必要です。

根拠:財産評価基本通達168(1)、169~172

3. 外国株式・ETF・REIT・気配相場等のある株式

(1)外国の取引所に上場されている株式

米国株など、外国の証券取引所に上場されている株式は、国内の上場株式に準じて評価します。原則として課税時期の最終価格を使いますが、課税時期の属する月以前3か月の月平均額のうち最も低い価額がこれを下回る場合は、その価額によることができます。

円換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)、またはこれに準ずる相場で行います。

(2)上場投資信託(ETF)・上場不動産投資信託(J-REIT)

取引所に上場されているETFやJ-REITは、上場株式と同じく、終値と、相続開始月・その前月・前々月の月平均額のうち最も低い価額で評価します。J-REITは1口ごとに評価し、金銭分配期待権(利益超過分配金を含む)は、株式の配当期待権に準じて評価します。

【注意】同じ「投資信託」でも、上場しているETF・J-REITは上場株式の方法、上場していない公募投資信託は基準価額を基にした方法(第5章)で評価します。保有している銘柄がどちらに当たるか、最初に確認しましょう。

(3)気配相場等のある株式

上場はしていないものの、日本証券業協会の登録銘柄・店頭管理銘柄や、金融商品取引所が上場を承認したことを明らかにした日から上場日の前日までの株式などの公開途上にある株式(上場を申請しているだけの株式は該当しません)は「気配相場等のある株式」として、評価通達174以下の定めにより評価します。現在、一般の方が保有することはまれなため、該当する場合は個別に確認が必要です。

根拠:財産評価基本通達4-3、169、174~177-2、199、213、国税庁質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」

4. 公社債

国債、地方債、社債などの公社債は、銘柄ごとに、券面額100円当たりの価額に券面額÷100を掛けて評価します。公社債の種類ごとに、次のように評価します。なお、課税時期に最終価格等がない場合は、原則として課税時期前の最も近い日の価格を使います(上場株式のように翌日以後の価格を採用するものではありません)。

(1)利付公社債

区分 券面額100円当たりの評価額
取引所に上場されているもの 課税時期の最終価格+既経過利息(源泉所得税相当額控除後)
日本証券業協会が売買参考統計値を公表する銘柄 課税時期の平均値+既経過利息(源泉所得税相当額控除後)
その他のもの 発行価額+既経過利息(源泉所得税相当額控除後)

上場されていて売買参考統計値も公表されている銘柄は、取引所の最終価格と売買参考統計値の平均値のうち、いずれか低い金額を使います。既経過利息とは、直前の利払日の翌日から課税時期までの期間に対応する利息です。

(2)割引発行の公社債

区分 券面額100円当たりの評価額
取引所に上場されているもの 課税時期の最終価格
売買参考統計値を公表する銘柄 課税時期の平均値
その他のもの 発行価額+(券面額−発行価額)×(発行日から課税時期までの日数÷発行日から償還期限までの日数)

償還差益に係る源泉所得税相当額がある場合は、その金額を控除します。

(3)個人向け国債

個人向け国債は、課税時期に中途換金した場合に取扱機関から支払を受けられる価額で評価します。中途換金の際に差し引かれる「中途換金調整額」を控除した金額になるため、額面より低くなることがあります。取扱機関に依頼して、課税時期での換金額を証明してもらうのが確実です。

(4)転換社債型新株予約権付社債

転換社債型新株予約権付社債は、次の区分に応じて評価します。

  • 取引所に上場されているもの:課税時期の最終価格+源泉所得税相当額控除後の既経過利息
  • 店頭転換社債として登録されているもの:日本証券業協会が公表する最終価格+源泉所得税相当額控除後の既経過利息
  • 上場・店頭登録のいずれにも該当しないもの:転換先の株式の価額が転換価格を超えるかどうかで、次の表のように計算
区分 券面額100円当たりの評価額
株式の価額が転換価格以下 発行価額+既経過利息(源泉所得税相当額控除後)
株式の価額が転換価格超 株式の価額×100円÷転換価格

転換先が取引相場のない株式である場合は、未転換の社債がすべて株式に転換されたものとして、その増資を反映するように株式の価額を修正する必要があります。

根拠:財産評価基本通達197、197-2、197-3、197-5

5. 証券投資信託・貸付信託

証券投資信託の受益証券は、課税時期に解約請求または買取請求をした場合に、証券会社などから支払を受けられる価額で評価します。上場株式のような月平均額の制度はありません。

(1)日々決算型(MMF・MRF・中期国債ファンドなど)

証券口座の待機資金として使われるMRFなど、毎日決算を行う投資信託は、次の算式で評価します。

算式
1口当たりの基準価額×口数+再投資されていない未収分配金−未収分配金に係る源泉徴収相当額−信託財産留保額・解約手数料(消費税相当額を含む)

(2)その他の証券投資信託

株式投信やバランス型ファンドなど、上場していない一般的な投資信託は、次の算式で評価します。

算式
課税時期の1口当たりの基準価額×口数−解約した場合に源泉徴収される所得税等の相当額−信託財産留保額・解約手数料(消費税相当額を含む)

基準価額が1万口当たりで公表されている場合は、口数を1万で割って計算します。課税時期の基準価額がない場合は、課税時期前の最も近い日の基準価額を使います。

(計算例)基準価額12,000円(1万口当たり)、保有口数500万口、信託財産留保額0.3%、解約手数料なしの場合

項目 金額
基準価額×口数 12,000円×500万口÷1万=600万円
信託財産留保額 600万円×0.3%=1万8,000円
評価額(源泉徴収相当額がない場合) 600万円−1万8,000円=598万2,000円

【注意】証券会社の残高証明書に記載されている「時価評価額」は、信託財産留保額や源泉徴収相当額を差し引く前の金額であることがあります。目論見書などで信託財産留保額の有無を確認して、控除漏れがないようにしましょう。また、源泉徴収相当額は評価額全体に税率を掛けるのではなく、解約時に実際に源泉徴収されるべき金額を確認します。NISA口座などの非課税扱いも含め、口座や商品ごとの課税関係を証券会社等に確認してください。

(3)貸付信託受益証券

貸付信託の受益証券は、課税時期に発行した信託銀行などが買い取るとした場合の買取価格(元本+既経過収益−源泉所得税相当額−買取割引料)で評価します。

根拠:財産評価基本通達198、199

6. その他の取扱い

(1)外貨建ての有価証券

外国株式、外国債券、外貨建MMFなど外貨建ての有価証券は、外貨で評価した金額を、原則として納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の対顧客直物電信買相場(TTB)で円換算します。課税時期に為替相場がない場合は、課税時期前の最も近い日の相場を使います。

(2)配当期待権・未収配当金

配当金を受ける権利は、株式とは別の財産として計上が必要な場合があります。

区分 状況 取扱い
配当期待権 配当金交付の基準日の翌日から、配当金交付の効力が発生する日までの間に相続が開始 予想配当額から源泉所得税相当額を控除した金額で評価
未収配当金 配当金交付の効力が発生し、まだ受け取っていない配当金がある 受け取る配当金の額(源泉所得税相当額控除後)を相続財産に計上

株主総会などによる配当の決議日と、配当金交付の効力発生日は同じとは限りません。配当期待権に当たるかどうかは、効力発生日で判定します。

(3)NISA口座・特定口座の有価証券

NISA口座や特定口座で保有していた有価証券も、相続税の評価方法は通常と同じです。NISAの非課税は所得税(配当・譲渡益)の非課税であり、相続税が非課税になるわけではありません。また、NISA口座の有価証券をそのまま相続人のNISA口座に移すことはできず、相続人の課税口座(特定口座など)に移管されます。

(4)証券口座の探し方

被相続人がどの証券会社に口座を持っていたか分からない場合は、株式会社証券保管振替機構(ほふり)に「登録済加入者情報の開示請求」をすると、口座を開設していた証券会社等を調べることができます。ただし、開示の対象は、国内上場株式・ETF・J-REITなどの振替株式等に係る口座の開設先です。外国株式、国債、一般の社債、非上場の投資信託だけを保有する口座などは、この開示請求では確認できません。また、開示されるのは開示時点の口座開設先であり、死亡日時点の口座や保有残高を証明する制度ではありません。銘柄や保有残高は、各金融機関に別途確認します。

根拠:財産評価基本通達4-3、193

7. 実務上の注意点

チェックポイント 内容
残高証明書の金額 「時価評価額」は相続税評価額と一致しないことがある。上場株式は月平均額、投資信託は信託財産留保額等を確認する
評価の基準日 相続開始日(課税時期)の価額。相続開始後の売却価格で評価し直すことはできない(ただし、上場株式の相続開始月の月平均額には、相続開始後から月末までの株価も含まれる)
種類の判定 上場のETF・REITか、非上場の投資信託かで評価方法が異なる
配当の計上漏れ 配当期待権や未収配当金、公社債の既経過利息を計上する
名義株・名義預金 家族名義の口座でも、実質的に被相続人の財産であれば相続財産に含める

【注意】相続開始後に株価が大きく下落しても、相続税の評価額は相続開始時点を基準とした価額であり、売却価格で評価し直すことはできません。納税資金に充てる予定の有価証券がある場合は、売却の時期も含めて早めに検討しましょう。

【注意】家族名義の証券口座でも、口座を開設した資金を被相続人が出し、被相続人が管理していた場合は、名義株として相続財産に含まれることがあります。税務調査で指摘されやすい項目です。

根拠:相続税法22条、財産評価基本通達1(2)、169、193、197-2、199

8. 根拠法令・通達

項目 根拠
財産の評価(時価) 相続税法22条、財産評価基本通達1(2)
外貨建ての財産の円換算 財産評価基本通達4-3
上場株式の定義・評価 財産評価基本通達168(1)、169
権利落等・最終価格がない場合・月平均額の特例 財産評価基本通達170、171、172
気配相場等のある株式 財産評価基本通達174~177-2
配当期待権 財産評価基本通達193
公社債 財産評価基本通達197、197-2、197-3、197-4、197-5
貸付信託受益証券 財産評価基本通達198
証券投資信託受益証券(ETFを含む) 財産評価基本通達199
不動産投資信託証券(J-REIT) 財産評価基本通達213
公開途上にある株式の定義 財産評価基本通達168(2)ロ
配当期待権の定義 財産評価基本通達168(7)

参考(国税庁・e-Gov)

まとめ

  • 上場株式は、相続開始日の終値と、相続開始月以前3か月の月平均額のうち、最も低い価額で評価します。外国株式、ETF、J-REITもこれに準じて評価します。
  • 公社債は、上場の有無や売買参考統計値の公表の有無に応じて評価し、利付債は源泉所得税相当額控除後の既経過利息を加算します。個人向け国債は中途換金額で評価します。
  • 非上場の証券投資信託は、解約した場合の支払額(基準価額×口数から源泉徴収相当額や信託財産留保額等を控除)で評価します。MMF・MRFなど日々決算型は未収分配金も加算します。
  • 外貨建ての有価証券は、原則として課税時期のTTBで円換算します。配当期待権や未収配当金の計上漏れにも注意が必要です。
  • 証券会社の残高証明書の「時価評価額」は、相続税評価額と異なることがあるため、種類ごとに評価し直すことが大切です。

当事務所では、上場株式や投資信託、外国証券を含む相続財産の評価や相続税申告のご相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。

※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別の事案の取扱いについては、税理士等の専門家にご相談ください。

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