相続が発生した後の遺産にかかる手続きの流れ ~3か月・4か月・10か月の期限~

相続

はじめに

相続が発生すると、死亡届から相続税の申告まで、多くの手続きを限られた期間内に進める必要があります。特に大切なのが、次の3つの期限です。

期限 手続き
3か月以内 相続放棄・限定承認(家庭裁判所への申述)
4か月以内 亡くなった方の所得税の準確定申告
10か月以内 相続税の申告と納付

10か月の相続税申告はよく知られていますが、実務上より注意が必要なのは、その前に来る「3か月」と「4か月」の期限です。この記事では、相続の開始から遺産分割の完了までの手続きを時系列で整理し、根拠法令とあわせて解説します。

全体の流れ

相続発生(相続の開始を知った日)からの目安です(★は法定期限)。

時期 主な手続き ポイント
当日~7日 死亡届・火葬許可申請 市区町村へ。死亡診断書を添付
14日以内 世帯主変更届・保険証の返却・年金の届出 市区町村・年金事務所へ
~2か月 遺言書の確認・戸籍の収集・財産と債務の調査 自筆証書遺言は家庭裁判所で検認
★3か月 相続放棄・限定承認の期限 家庭裁判所へ申述。遺産に手を付けると単純承認に
★4か月 準確定申告・納税の期限 亡くなった方の納税地の税務署へ
4~9か月 財産の評価・遺産分割協議・納税資金の準備 合意したら遺産分割協議書を作成
★10か月 相続税の申告・納付の期限 未分割なら「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付
★3年 不動産の相続登記の期限 令和6年4月1日から義務化。預貯金などの名義変更に期限はなし

最初の3か月で「相続するかどうか」を決め、4か月で準確定申告、10か月で相続税の申告と納付を終えます。不動産の相続登記は、それとは別に3年以内が期限です。

1. 相続発生から2週間:市区町村への届出

最初の2週間は、市区町村への届出が中心です。死亡届は7日以内、その他の多くは14日以内が期限です。

手続き 期限 提出先・ポイント
死亡届・火葬許可申請 死亡を知った日から7日以内 死亡者の本籍地・死亡地・届出人の所在地の市区町村。死亡診断書を添付し、「火葬許可証」の交付を受けます。
世帯主変更届 14日以内 世帯主が亡くなり、残った世帯員が2人以上いる場合に、住所地の市区町村へ提出します。
国民健康保険・後期高齢者医療保険・介護保険の資格喪失届 14日以内 保険証を返却します。葬祭費の申請は2年以内です。
年金の受給停止(死亡届) 国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内 年金事務所などへ。未支給年金の請求もあわせて行います。
各種医療証・障害者手帳などの返却 14日以内・すみやかに 市区町村の担当窓口へ。
生命保険金の請求 3年で時効 保険会社に連絡し、「死亡保険金支払請求書」を取り寄せます。

死亡届は役所の休日でも受け付けているので、死亡当日か翌日には提出するのが一般的です。必要な書類は市区町村によって異なるため、担当窓口で確認しましょう。

【早めの専門家への相談】届出が一段落したら、税理士などの専門家への相談を始めましょう。亡くなった方が個人事業や不動産賃貸をしていた場合、非上場株式や海外財産がある場合は、資料収集や評価に時間がかかるため、特に早めの着手が必要です。

2. 相続発生から2か月:遺言書・相続人・財産の確認

3か月の期限に備えて、まず「遺言があるか」「誰が相続人か」「財産と借金はどれだけあるか」を確認します。

遺言書の確認と検認

  • 自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合は、開封せずに、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺言書検認申立書」を提出します。
  • 公正証書遺言と、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」で保管されていた遺言書は、検認は不要です。

相続人の確定

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本を集めて、相続人を確定します。法務局の「法定相続情報証明制度」を使うと、その後の銀行や登記の手続きで戸籍の束を何度も提出する必要がなくなります。

相続人に未成年者がいて、親と利益が相反する場合(親と子がともに相続人となる場合など)は、家庭裁判所に「特別代理人選任申立書」を提出します。特別代理人が遺産分割協議に参加するので、早めに手続きしましょう。

財産と債務の把握

預貯金、不動産、有価証券、生命保険などの財産と、借入金や未払金などの債務を一覧にします。借金が多い場合は、次の「3か月」の判断に直結するため、この段階でできるだけ正確に把握することが大切です。

3. 相続発生から3か月以内:相続放棄・限定承認

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、次の3つのうちどれを選ぶかを決めます。

選択肢 内容 手続き
単純承認 財産も借金もすべて引き継ぐ 手続き不要(3か月以内に何もしなければ単純承認)
限定承認 相続した財産の範囲内で借金を引き継ぐ 相続人全員で、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述(財産目録を添付)
相続放棄 財産も借金もすべて引き継がない 各相続人が単独で、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出

財産の調査が間に合わない場合は、期限内に家庭裁判所へ申し立てて、熟慮期間を伸ばしてもらうこともできます。

【要注意:無意識の「単純承認」】相続放棄を検討している場合は、遺産に手を付けてはいけません。家庭裁判所で手続きする前に、預金を引き出して使ったり、車を売却したりするなど「遺産を処分」すると、法律上「単純承認」したものとみなされ、借金も含めて放棄できなくなるおそれがあります。

なお、相続放棄をした人も、受取人であれば生命保険金を受け取れます(受取人固有の財産)。
ただし、その保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象となり、相続放棄をした人は生命保険金の非課税枠を使えません。

4. 相続発生から4か月以内:準確定申告

亡くなった方に所得税の確定申告が必要な場合、相続人が代わって申告と納税をします(準確定申告)。

項目 内容
期限 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内(たとえば知った日が7月10日なら11月10日)
提出先 相続人の住所地ではなく、亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署
添付書類 相続人が2人以上いる場合は「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」(相続人が1人でもe-Taxで申告する場合は付表の添付が必要です)
前年分も必要な場合 1月1日から3月15日までに、前年分の確定申告をせずに亡くなった場合は、前年分も同じ期限までに申告します。

亡くなった方が個人事業や不動産賃貸をしていた場合は、帳簿や資料の整理に時間がかかります。消費税の課税事業者だった場合は、消費税の申告も同じく4か月以内です。死亡直後から逆算して準備しましょう。

詳しくは、当事務所の記事「準確定申告とは? ~亡くなった方の所得税の申告・期限・注意点~」をご覧ください。付表の書き方も解説しています。

5. 相続発生から4~9か月:財産の評価と遺産分割協議

この時期は、「財産の評価」と「遺産分割協議」を同時に進めます。財産の価値が決まらなければ、公平な分け方を話し合うことはできません。

  • 財産の評価:不動産は路線価や固定資産税評価額、上場株式は株価、非上場株式は会社の決算書などをもとに評価します。賃貸不動産や非上場株式は特に時間がかかります。
  • 遺産分割協議:遺言がない場合は、相続人全員で「誰が、何を、どれだけ」取得するかを話し合います(遺言がある場合は次の項目をご覧ください)。合意ができたら「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名して実印を押します。
  • 納税資金の準備:相続税は原則として現金で一括納付です。分割の内容とあわせて、各相続人の納税資金や、延納・物納の必要性も検討します。

遺言がある場合の遺産分割

有効な遺言がある場合は、原則として遺言の内容が法定相続分より優先されます。

ケース 遺産分割協議
遺言ですべての財産の取得者が決まっている 不要。遺言に基づいて名義変更や相続税の申告を行います。
遺言に書かれていない財産がある その財産については、相続人全員での協議が必要です。
相続人全員が遺言と異なる分け方を希望している 全員の合意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割することもできます。

遺言と異なる遺産分割をする場合の注意点

  • 相続人全員の合意が必要です。相続人以外の人(受遺者)がいる場合はその人の同意も必要で、遺言執行者がいる場合は、その同意も得ておくのが一般的です。
  • 遺言で遺産分割が禁止されている場合は、その期間は分割できません。
  • 税務上は、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、各人の相続税の課税価格はその分割の内容によります。受遺者が遺贈を事実上放棄し、相続人間で分割が行われたものと扱われるため、贈与税は課されません(国税庁タックスアンサー No.4176)。
  • 一方、いったん遺言どおりに名義変更した後に財産を移すと、贈与とされるおそれがあります。遺言と異なる分割をする場合は、名義変更の前に協議をまとめましょう。

【遺留分にも注意】遺言によって自分の取り分が法律で保障された最低限の割合(遺留分)を下回った相続人は、多く取得した人に対して「遺留分侵害額」に相当する金銭を請求できます。請求できるのは、相続の開始と侵害を知った時から1年以内(相続開始から10年以内)です。

名義変更と相続登記の義務化

遺産分割がまとまったら、預貯金の解約・名義変更、不動産の相続登記などを行います。これらの名義変更は、必ずしも相続税の申告期限(10か月)までに終える必要はありません。相続税の申告は、名義変更前でも遺産分割の内容に基づいて行えます。ただし、不動産の相続登記には次のように3年の期限があり、納税資金に預金を充てる場合は納期限までに解約手続きを済ませる必要があるので、注意しましょう。

【相続登記は3年以内に義務化】令和6年4月1日から、不動産を相続した人は、相続の開始を知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務付けられました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象となります。令和6年4月1日より前の相続も対象で、その場合は原則として令和9年3月31日までに登記する必要があります(取得を知った日がそれより後の場合は、その日から3年以内)。相続税の申告が終わっても、登記が終わるまでは相続手続きは完了しません。

その他の期限がある手続き

手続き 期限
農地を相続した場合の農業委員会への届出 相続を知った後、遅滞なく(おおむね10か月以内)
森林を相続した場合の市町村への届出 90日以内
遺留分侵害額の請求 相続の開始と侵害を知った時から1年、または相続開始から10年
不動産の相続登記 取得を知った日から3年以内

6. 相続発生から10か月以内:相続税の申告と納付

正味の遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署へ相続税の申告をします。申告だけでなく、納付も同じ期限です。

10か月までに遺産分割がまとまらない場合

遺産分割がまとまっていなくても、相続税の申告期限は延長されません。その場合は、次の流れで手続きします。

①いったん法定相続人が法定相続分で財産を取得したものとして、期限内に申告と納税をします。
②後日、遺産分割がまとまったら、修正申告や更正の請求で税額を調整します。税額が減る場合の更正の請求は、遺産分割が成立した日の翌日から4か月以内に行います。

【特例を使うための必須の手続き】小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は、原則として申告期限までに遺産分割されていることが要件です。未分割で申告する場合は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添付してください。これを忘れると、後で分割がまとまっても特例が使えなくなります。

現金で一括納付できない場合は、延納や物納を納期限までに申請します。
詳しくは、当事務所の記事「相続税の申告と納税 ~期限・納付方法・延納と物納~」をご覧ください。
小規模宅地等の特例は「小規模宅地等の特例「家なき子特例」とは?」、配偶者の税額軽減は「相続税の税額控除とは?」でも解説しています。

スケジュール例:令和8年4月21日に相続が発生した場合

期限 手続き
令和8年7月21日 相続放棄・限定承認(3か月)
令和8年8月21日 準確定申告(4か月)
令和9年2月22日 相続税の申告・納付(10か月、期限の2月21日が日曜日のため翌日)
令和11年4月21日 不動産の相続登記(3年)

※死亡した日に相続の開始を知ったものとして計算しています。税務申告の期限が土曜日・日曜日・祝日にあたる場合は、その翌日(休日明け)が期限になります。

7. 根拠法令・通達

手続き 根拠
死亡届(7日以内) 戸籍法第86条
世帯主変更届(14日以内) 住民基本台帳法第25条
生命保険金の請求(3年で時効) 保険法第95条
遺言書の検認 民法第1004条
保管制度を利用した自筆証書遺言の検認不要 法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条
未成年者の特別代理人 民法第826条
熟慮期間(3か月)とその伸長 民法第915条
単純承認とみなされる場合(法定単純承認) 民法第921条
限定承認 民法第922条~第924条
相続放棄 民法第938条・第939条
準確定申告(4か月以内) 所得税法第124条・第125条
個人事業者が死亡した場合の消費税の申告 消費税法第45条第3項
遺産分割 民法第907条(遺言による相続分の指定:第902条、遺言による分割の禁止:第908条、遺言執行者がいる場合:第1013条)、遺言と異なる分割の課税関係:相続税法第11条の2
相続登記の申請義務(3年以内)・過料 不動産登記法第76条の2・第164条
農地を相続した場合の届出 農地法第3条の3
森林を相続した場合の届出(90日以内) 森林法第10条の7の2
遺留分侵害額の請求 民法第1046条・第1048条
相続税の申告期限(10か月以内) 相続税法第27条
相続税の納付期限 相続税法第33条
未分割の場合の課税価格の計算 相続税法第55条
分割後の更正の請求 相続税法第32条
配偶者の税額軽減の分割要件 相続税法第19条の2第2項
小規模宅地等の特例の分割要件 租税特別措置法第69条の4第4項
延納・物納 相続税法第38条・第41条
期限が休日の場合の取扱い(税務) 国税通則法第10条第2項

参考(国税庁の公表資料)

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まとめ

  • 相続手続きで特に重要な期限は、相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税の申告・納付の10か月です。
  • 相続放棄を検討している間は、遺産に手を付けないようにしましょう。
  • 遺言がある場合は原則として遺言が優先されますが、相続人全員が合意すれば遺言と異なる遺産分割もできます。
  • 10か月までに遺産分割がまとまらなくても申告期限は延びないため、未分割で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。
  • 預貯金などの名義変更は10か月を過ぎても構いませんが、不動産の相続登記は3年以内に行う義務があります。
  • 個人事業や不動産賃貸、非上場株式、海外財産がある場合は、早めに専門家に相談しましょう。

相続手続きには厳格な期限がありますが、全体の流れを把握し、亡くなった日から逆算して期限をカレンダーに書き込んでおけば、落ち着いて進めることができます。

当事務所では、準確定申告や相続税の申告、遺産分割のシミュレーション、生前の相続対策のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。

※本記事は国税庁ホームページの公表資料などを参考に作成しています。個別のご事情により取扱いが異なる場合があります。

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