生命保険は遺留分対策として有効か?

遺留分

はじめに

「特定の子に多く財産を残したいが、他の子から遺留分を請求されないか心配」というご相談は少なくありません。その対策として、生命保険がよく挙げられます。

結論から言うと、生命保険は遺留分対策として一定の効果がありますが、万能ではありません。

  • 原則:死亡保険金は受取人固有の財産であり、遺産にも、遺留分を算定するための財産にも含まれません(最高裁昭和40年2月2日判決、最高裁平成14年11月5日判決)。
  • 例外:保険金の額や遺産総額に対する比率などから、相続人間に「到底是認することができないほどに著しい」不公平があると評価される特段の事情がある場合は、遺産分割において特別受益に準じた持戻しの対象となります(最高裁平成16年10月29日決定)。遺留分の計算でも死亡保険金が考慮された下級審裁判例があります。

この記事では、根拠となる民法の条文と最高裁の判例・下級審の裁判例を詳しく紹介し、どこまでが「盾」として機能するのかを計算事例で確認します。

【注意】遺留分は民法の問題であり、相続税の取扱いとは異なります。民法上は遺産外でも、相続税法上、死亡保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になります。

1. 遺留分の基本

(1) 遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された最低限の取得分です。遺言や生前贈与で全財産を特定の人に渡しても、他の相続人は遺留分に相当する金銭の支払を請求できます。

相続人の構成 総体的遺留分 個別的遺留分の例
直系尊属のみ 3分の1 父母2人:各6分の1
上記以外(配偶者・子など) 2分の1 配偶者と子2人:配偶者4分の1、子各8分の1
兄弟姉妹 なし ―

(2) 遺留分を算定するための財産

遺留分を算定するための財産の価額 = 相続開始時の財産 + 贈与した財産 - 債務

加算する贈与は、原則として相続開始前1年間のものです。ただし、相続人に対する贈与は、相続開始前10年間にした婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与(特別受益)が対象です。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、期間の制限なく加算します。

(3) 遺留分侵害額請求

令和元年7月1日以後に開始した相続では、遺留分は「遺留分侵害額請求」として、金銭の支払を請求する権利になりました。それ以前の「遺留分減殺請求」のように、不動産や株式が共有になることはありません。その代わり、請求された側には支払うための現金が必要になります。

請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始の時から10年で消滅します。

根拠:民法1042条、1043条、1044条、1046条、1048条、民法(e-Gov法令検索)、裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

2. 死亡保険金は受取人固有の財産

(1) 最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(民集19巻1号1頁)

被保険者が死亡した場合の保険金受取人を「被保険者の相続人」と指定した養老保険について、保険金請求権が遺産に含まれるかが争われた事件です。

最高裁は、特段の事情のない限り、保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者(契約者)の遺産から離脱していると判断しました。受取人は、保険金を被相続人から相続するのではなく、保険契約に基づいて自分自身の権利として取得します。

(2) 遺産と保険金の違い

項目 預金1億円を遺言で長男に相続させる 保険金1億円の受取人を長男にする
取得の根拠 遺言(相続) 保険契約(受取人固有の権利)
遺産分割協議の要否 有効な遺言で取得者が確定していれば、原則不要 原則不要
遺留分を算定するための財産 含まれる 原則として含まれない
相続税 課税対象 みなし相続財産として課税対象(非課税限度額あり)

(3) 死亡保険金受取人と約款の確認

受取人固有の財産とされるのは、死亡保険金受取人として被保険者以外の人が指定されている場合です。保険証券には満期保険金や生存給付金の受取人も記載されているため、死亡保険金受取人と混同しないよう注意が必要です。

また、指定された受取人が被保険者より先に死亡した場合も、直ちに被保険者の遺産になるわけではありません。保険法46条は、受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が受取人となると定めています。実際には約款に別の定めがあることもあるため、死亡保険金の帰属は、死亡保険金受取人の指定と約款の両方で確認します。

【注意】遺留分対策として生命保険を使う場合は、契約者・被保険者を被相続人、死亡保険金の受取人を財産を残したい相続人に指定します。死亡保険金受取人の指定と約款の内容を確認し、受取人が先に亡くなった場合に備えて、定期的に受取人を見直してください。

根拠:最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁、保険法42条(第三者のためにする生命保険契約)、46条(保険金受取人の死亡)、保険法(e-Gov法令検索)

3. 受取人の変更は遺贈・贈与に当たらない(平成14年判決)

(1) 事件の概要

最高裁平成14年11月5日第一小法廷判決(民集56巻8号2069頁)は、自分を被保険者とする生命保険の契約者が、生前に死亡保険金の受取人を変更した事件です。変更前の受取人であった相続人は、受取人の変更は旧民法1031条の「遺贈又は贈与」に当たるとして、遺留分減殺を主張しました。

(2) 判断

最高裁は、受取人を変更する行為は、旧民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと判断し、遺留分減殺の主張を退けました。理由は次の2点です。

  1. 死亡保険金請求権は、指定された受取人が自己の固有の権利として取得するものであり、契約者や被保険者から承継するものではなく、その相続財産を構成しない(昭和40年判決を参照)。
  2. 死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、契約者が払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないため、実質的に契約者や被保険者の財産に属していたともいえない。

(3) この判決の意味

この判決により、生前に受取人を特定の相続人に変更しても、その変更自体は遺留分の対象となる「遺贈又は贈与」には当たらないことが明らかになりました。旧民法1031条は、現行民法では遺留分侵害額請求(民法1046条)に引き継がれています。

なお、保険法(平成22年4月1日施行)では、受取人の変更は保険会社への意思表示で行い(43条)、遺言によっても変更できることが明文化されました(44条)。遺言で変更した場合は、相続人が保険会社に通知しなければ、保険会社に対抗できません。

根拠:最高裁平成14年11月5日第一小法廷判決・民集56巻8号2069頁、旧民法1031条、民法1046条、保険法43条、44条

4. 著しい不公平がある場合の例外(平成16年決定)

(1) 事件の概要

最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定(民集58巻7号1979頁、平成16年(許)11号)は、遺産分割の事件です。

項目 内容
被相続人 父(平成2年1月死亡)、母(平成2年10月死亡)
相続人 子4人(保険金を受け取った子1人と、その他の子3人)
死亡保険金 母が契約者・被保険者の養老保険2件。受取人は子1人で、保険金は5,002,465円と737,824円(合計約574万円)
分割対象の遺産 父名義の土地(固定資産税評価額合計707万7,100円、鑑定評価額合計1,149万円)。その他の遺産は分割済み
受取人の事情 自宅を増築して両親と同居し、認知症の父の介護を母と分担した。他の子3人は同居していない
主張 他の子3人は、死亡保険金は特別受益(民法903条1項)に当たると主張

(2) 原則:特別受益には当たらない

最高裁は、養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又は死亡保険金は、「民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である」と判断しました。理由は、昭和40年判決・平成14年判決と同じく、受取人固有の権利であること、被保険者が死亡した時に初めて発生し、払い込んだ保険料と等価関係に立たないことです。

(3) 例外:特段の事情があれば持戻しの対象

一方で最高裁は、保険料は被相続人が生前に支払ったものであり、被相続人の死亡により受取人である相続人に保険金請求権が発生することなどに着目し、次の例外を示しました。

保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、民法903条の趣旨に照らして「到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、「同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である」。

(4) 特段の事情の判断要素

特段の事情の有無は、次の事情を総合考慮して判断するとされています。

  • 保険金の額
  • 保険金の額の遺産の総額に対する比率
  • 同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなど、受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係
  • 各相続人の生活実態等

(5) 結論

本件では、保険金の額、土地の評価額、母の遺産総額、各当事者と被相続人との関係、生活実態などから、「特段の事情があるとまではいえない」として、持戻しを認めませんでした。受取人が両親と同居して介護を担っていたことが、判断に影響したと考えられます。

(6) 遺留分との関係

平成16年決定は、遺産分割における特別受益(民法903条)について判断したものです。ただし、現行民法では、相続人に対する特別受益に当たる贈与は、相続開始前10年間のものが遺留分を算定するための財産に加算され(民法1044条3項)、遺留分侵害額の計算でも特別受益が考慮されます(民法1046条2項)。そのため、特段の事情がある場合には、遺留分の計算でも死亡保険金が考慮される可能性があります。

実際、平成16年決定以後の下級審裁判例には、旧法の遺留分減殺請求の事件で、平成16年決定の枠組みを用いて死亡保険金を遺留分算定の基礎財産に含めるかを判断したものが多くあります(次の5章参照)。

【注意】遺留分の計算で死亡保険金をどのように扱うか(加算の可否、加算する金額、10年の期間制限との関係)について、最高裁は直接判断していません。「生命保険なら絶対に遺留分の対象外」とは言えない点に注意が必要です。

根拠:最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定・民集58巻7号1979頁(裁判所「裁判例結果詳細」、決定全文)、民法903条、1044条3項、1046条2項

5. 特段の事情が問題となった裁判例

平成16年決定の後、各地の裁判所で特段の事情の有無が判断されています。保険金の遺産総額に対する比率が重視されますが、比率だけで結論が決まるわけではありません。

(1) 主な裁判例

裁判例 事件類型 保険金の額 遺産総額に対する比率 主な事情 特段の事情
東京高決平成17年10月27日(家月58巻5号94頁) 遺産分割 1億570万円 104.3% 子2人。受取人は被相続人と別居。受取人変更の時期 あり
名古屋高決平成18年3月27日(家月58巻10号66頁) 遺産分割 5,154万円 61.19% 後妻が受取人。後妻との婚姻期間は3年5か月程度 あり
大阪家堺支審平成18年3月22日(家月58巻10号84頁) 遺産分割 428万円 6.16% 受取人が長年同居し、入通院時の世話をした なし
広島高決令和4年2月25日(判時2536号59頁) 遺産分割 2,100万円 約270% 妻が受取人。専業主婦で他に収入がなく、母は長年別居・別生計 なし
東京地判平成23年4月21日 遺留分減殺請求(旧法) 1,075万円 7.55% 受取人の生活費は長年被相続人の収入で賄われ、遺言で全財産も受取人が相続 あり
東京地判平成26年3月19日 遺留分減殺請求(旧法) 500万円 9.37% 受取人が療養看護。請求した相続人は被相続人とほぼ交流なし なし
東京地判平成31年2月7日 遺留分減殺請求(旧法) 5,000万円 45% 保険料を一括払い。受取人は生前にも多額の贈与を受けていた あり
東京地判令和元年5月31日 遺留分減殺請求(旧法) 2,017万円 2% 受取人(養子)は同居し家の後継として期待された。相続税対策で一括払い なし
東京地判令和3年9月13日 遺留分減殺請求(旧法) 1,475万円 93% 受取人が財産管理や身の回りの世話を担当 あり

引用元の評釈によると、平成16年決定以後の公表された下級審裁判例14件のうち、遺産分割の事案が3件、遺留分減殺請求の事案が10件、その他が1件です。広島高決令和4年2月25日は、評釈の対象となった事件です。

(2) 広島高決令和4年2月25日の内容

この事件は、保険金が遺産を大きく上回っていても特段の事情が否定された例です。

  • 相続人は母(法定相続分3分の1)と妻(同3分の2)。相続開始時の遺産は772万3,699円、妻が受け取った死亡保険金は合計2,100万円で、遺産の約2.7倍でした。
  • 裁判所は、保険金の額が一般的な夫婦間の生命保険と比べて高額ではないこと、保険料が月約1万4,000円で過大でないこと、妻の生活保障が目的であること、母が長年別居・別生計であったことなどを理由に、持戻しを否定しました。

(3) 裁判例から分かること

  • 保険金が遺産と同程度かそれ以上、又は遺産の半分を超えるような場合は、特段の事情が認められやすい傾向があります。
  • 一方、比率が高くても、配偶者の生活保障など合理的な目的があり、保険料も過大でない場合は否定された例があります。
  • 逆に、比率が1割に満たなくても、遺言で全財産も受取人に相続させるなど、他の事情と合わせて肯定された例もあります。
  • 同居や介護への貢献は、特段の事情を否定する方向で考慮されています。

【注意】「遺産の何%までなら安全」という基準はありません。保険金の額だけでなく、加入の目的、保険料の額と支払方法(一時払いかどうか)、生前贈与や遺言の内容、各相続人と被相続人との関係などを全体で検討する必要があります。

出典:一般社団法人日本共済協会「共済と保険」2023年10月号 共済・保険判例研究「広島高裁令和4年2月25日決定」に掲載の裁判例一覧をもとに作成

6. 計算事例

(1) 前提

項目 前提
被相続人の財産 預金1億円(債務なし、生前贈与なし)
相続人 子Aと子Bの2人(配偶者はいない)
遺言 全財産をAに相続させる
Bの遺留分の割合 2分の1×法定相続分2分の1=4分の1
生命保険 被相続人が契約者・被保険者、Aが受取人の一時払終身保険。簡略化のため、死亡保険金=支払った保険料とする

相続税は考慮していません。Bは遺贈も生前贈与も受けていないため、Bの遺留分侵害額は遺留分の額と同じです。

(2) ケース別の計算

項目 ①保険に加入しない ②1,000万円を保険に ③5,000万円を保険に(原則どおり) ④③で保険金全額を加算した場合
相続開始時の遺産 1億円 9,000万円 5,000万円 5,000万円
Aの死亡保険金 0円 1,000万円 5,000万円 5,000万円
保険金/遺産 ― 11.1% 100% 100%
遺留分を算定するための財産 1億円 9,000万円 5,000万円 1億円
Bの遺留分侵害額 2,500万円 2,250万円 1,250万円 2,500万円
Aの最終的な取得額 7,500万円 7,750万円 8,750万円 7,500万円

②では、Aの取得額は遺産9,000万円+保険金1,000万円-支払2,250万円=7,750万円です。保険にした1,000万円の4分の1、つまり250万円だけBの遺留分が小さくなります。ただし、比率だけで特段の事情の有無を判断することはできません。

③では、原則どおりであればBの遺留分は1,250万円に半減します。しかし、保険金が遺産と同額で、東京高決平成17年10月27日(104.3%)や名古屋高決平成18年3月27日(61.19%)と同じ水準です。保険金全額を加算すると仮定した場合は④のとおり、保険に加入しなかった場合と同じ結果になります。

【注意】④は、特段の事情があるとされ、死亡保険金の全額が遺留分を算定するための財産に加算されたと仮定した試算です。加算する金額(保険金額か、支払った保険料かなど)については、確立した取扱いはありません。

(3) 遺留分の支払資金としての効果

遺留分侵害額請求は金銭での支払を求める権利です。たとえば遺産が自社株や不動産ばかりでも、Aが受け取った死亡保険金は、遺産分割を待たずに保険会社に請求して受け取れるため、Bへの支払資金に充てられます。実務では、遺留分の額を減らす効果よりも、この「支払資金を確保する効果」の方が大きいことも少なくありません。

根拠:民法1042条、1043条、1046条

7. 実務上の注意点

(1) 民法と相続税法で取扱いが異なる

民法上は遺産ではない死亡保険金も、被相続人が保険料を負担していれば、相続税法上はみなし相続財産として相続税がかかります。相続人が受け取る場合は、「500万円×法定相続人の数」まで非課税です。

保険料負担者 被保険者 受取人 民法(遺産か) 課税される税金
被相続人 被相続人 相続人(例:長男) 遺産ではない(受取人固有) 相続税(非課税限度額あり)
長男 被相続人 長男 遺産ではない 所得税(一時金受取は一時所得)
配偶者 被相続人 長男 遺産ではない 贈与税

課税関係は、契約者の名義ではなく、実際の保険料負担者・被保険者・受取人の関係で判定します。契約者と保険料負担者が異なる場合は、実際の負担者で判定します(国税庁タックスアンサーNo.1750 死亡保険金を受け取ったとき)。

【注意】受取人を相続人以外(たとえば孫)にすると、相続税の非課税限度額は使えず、相続税額の2割加算の対象にもなります(孫が代襲相続人である場合を除きます)。遺留分対策だけでなく、相続税の負担も合わせて検討してください。

(2) 特段の事情とされないためのポイント

  1. 資産比率の検証:保険金の額が遺産総額に対して過大になっていないかを確認します。保険加入後の財産の増減も定期的に見直します。
  2. 合理的な目的の明確化:事業承継、納税資金・代償資金の確保、配偶者の生活保障など、保険を使う目的を説明できるようにしておきます。
  3. 全体のバランス:他の相続人にも一定の財産を残し、遺言の付言で設計の理由を伝えることも紛争の予防になります。

(3) 実務ケース別のリスク

目的 資産配分の設計 リスク
事業承継 自社株・事業用不動産を後継者に相続させ、後継者が受け取る保険金を他の相続人への支払資金・納税資金に充てる 事業承継という目的や全体のバランスが判断上考慮されるが、個別の事情による
配偶者の生活保障 配偶者を受取人とする保険で、残された配偶者の生活資金を確保する 生活保障という目的や生活実態が判断上考慮されるが、個別の事情による(比率が高くても否定された例がある)
特定の相続人への集中 預金の大半を一時払保険に移し、他の相続人にはほとんど残さない 特段の事情があるとされ、対策の効果が失われるおそれが大きい

(4) 他の方法との組合せ

生命保険だけで遺留分を完全に封じることはできません。次の方法を組み合わせて検討します。

  • 遺言:誰に何を相続させるかを定め、付言で理由を伝える。
  • 遺留分の放棄:相続開始前の放棄は、家庭裁判所の許可が必要(民法1049条)。
  • 生前贈与:相続人への特別受益は10年間、当事者双方が損害を知っていた贈与は期間の制限なく遺留分の計算に含まれる点に注意。
  • 民事信託:財産の管理や承継先を指定できるが、遺留分の対象外にはならないと考えられている。
  • 経営承継円滑化法の除外合意・固定合意:一定の要件の下で、後継者が取得した自社株式等を遺留分の計算から除外したり、価額を固定したりできる(推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要)。

根拠:相続税法3条1項1号、12条1項5号、18条、民法1044条、1049条、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条、8条、国税庁タックスアンサーNo.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金、裁判所「遺留分放棄の許可」

8. 根拠法令・判例一覧

区分 根拠 内容
法令 民法903条 特別受益者の相続分
法令 民法1042条 遺留分の帰属とその割合
法令 民法1043条、1044条 遺留分を算定するための財産の価額、加算する贈与(相続人への特別受益は10年間)
法令 民法1046条 遺留分侵害額の請求(金銭請求)
法令 民法1048条 遺留分侵害額請求権の期間の制限(1年・10年)
法令 民法1049条 遺留分の放棄(家庭裁判所の許可)
法令 保険法42条〜44条、46条 第三者のためにする生命保険契約、受取人の変更、遺言による受取人の変更、受取人が先に死亡した場合の取扱い
法令 相続税法3条1項1号、12条1項5号、18条 みなし相続財産、生命保険金の非課税限度額、相続税額の2割加算
法令 経営承継円滑化法4条、8条 除外合意・固定合意と家庭裁判所の許可
判例 最高裁昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁) 受取人を「相続人」と指定した保険金請求権は、相続人の固有財産で遺産ではない
判例 最高裁平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069頁) 受取人の変更は遺留分の対象となる遺贈又は贈与に当たらず、これに準ずるものでもない
判例 最高裁平成16年10月29日決定(民集58巻7号1979頁) 死亡保険金は原則として特別受益に当たらないが、著しい不公平がある特段の事情があれば持戻しの対象
裁判例 東京高決平成17年10月27日(家月58巻5号94頁) 保険金が遺産の104.3%。特段の事情あり
裁判例 名古屋高決平成18年3月27日(家月58巻10号66頁) 保険金が遺産の61.19%。特段の事情あり
裁判例 大阪家堺支審平成18年3月22日(家月58巻10号84頁) 保険金が遺産の6.16%。特段の事情なし
裁判例 広島高決令和4年2月25日(判時2536号59頁) 保険金が遺産の約2.7倍でも、配偶者の生活保障などから特段の事情なし

法令はe-Gov法令検索、最高裁の判例は裁判所の裁判例検索で確認できます。

まとめ

  • 死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺産にも、遺留分を算定するための財産にも含まれません(最高裁昭和40年2月2日判決)。
  • 受取人の変更は、遺留分の対象となる遺贈又は贈与に当たらず、これに準ずるものでもありません(最高裁平成14年11月5日判決)。
  • ただし、相続人間の不公平が到底是認できないほど著しい特段の事情がある場合は、遺産分割において特別受益に準じた持戻しの対象となります(最高裁平成16年10月29日決定)。遺留分の計算でも死亡保険金が考慮された下級審裁判例があります。
  • 特段の事情は、保険金の額、遺産総額に対する比率、同居や介護への貢献、各相続人の生活実態などを総合考慮して判断されます。保険金が遺産の6割〜同額程度で認められた裁判例がある一方、配偶者の生活保障などで否定された例もあります。
  • 生命保険は、遺留分の額を減らす効果に加えて、遺留分侵害額を支払うための資金を確保できる点に大きな効果があります。
  • 民法上は遺産でなくても、相続税法上はみなし相続財産として相続税の対象になります。遺言、遺留分の放棄、生前贈与などと組み合わせて全体を設計することが大切です。

当事務所では、生命保険を活用した遺留分対策や、遺言・生前贈与を含めた相続対策、相続税の試算のご相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。

※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別の事案の取扱いについては、当事務所にご相談ください。

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