相続人と法定相続人の違い~民法と相続税法の規定から

はじめに
相続の場面では「相続人」と「法定相続人」という言葉がよく使われます。日常的にはほぼ同じ意味で使われることが多いのですが、相続税の計算では、この2つを区別しないと基礎控除額や非課税限度額を誤ることがあります。
相続を放棄した人は、初めから相続人ではなかったものとされます。一方、相続税の基礎控除額や生命保険金の非課税限度額などを計算するときは、相続放棄がなかったものとして「法定相続人の数」を数えます。
つまり、相続を放棄した人は、遺産を相続する「相続人」からは外れますが、相続税の計算に使う「法定相続人の数」には含まれます。
なお、「相続人」と「法定相続人」が常に別の人を指すわけではありません。本記事では、実際に相続人となる人と、基礎控除額などの計算で使う「法定相続人の数」を区別し、この違いを中心に、民法と相続税法の規定をもとに解説します。
【注意】相続を放棄した人は、民法上は相続人ではなくなりますが、相続税の基礎控除額などを計算する「法定相続人の数」には含めます。この違いが、相続税の申告で誤りが多い点です。
1. 民法上の相続人(範囲と順位)
民法は、誰が相続人になるかを定めています。一般に「法定相続人」と呼ばれるのは、この民法の規定により相続人となる人のことです。被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順位で、配偶者と一緒に相続人となります。先の順位の人がいるときは、後の順位の人は相続人になりません。
| 順位 | 相続人 | 配偶者がいる場合の法定相続分 |
|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | ― |
| 第1順位 | 子(子が死亡している場合は孫などの直系卑属) | 配偶者 2分の1、子 2分の1 |
| 第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母など。親等の近い人が優先) | 配偶者 3分の2、直系尊属 3分の1 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合はその子) | 配偶者 4分の3、兄弟姉妹 4分の1 |
同じ順位の人が複数いるときは、原則として均等に分けます。養子は、養子縁組の日から実子と同じ血族(法定血族)となるため、実子と同じ第1順位の相続人です。また、胎児は、相続については既に生まれたものとみなされます。ただし、死産の場合は、この規定は適用されません。
【注意】婚姻届を出していない内縁関係の人は、民法上の相続人にはなりません。内縁関係の人に財産を残すには、遺言による遺贈などが必要です。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4132 相続人の範囲と法定相続分)
根拠:民法727条(養子と養親の血族関係)、886条(胎児)、887条(子及びその代襲者等)、889条(直系尊属及び兄弟姉妹)、890条(配偶者)、900条(法定相続分)
2. 相続人とならない場合と代襲相続
民法上は相続人になる立場にあっても、次の場合には相続人となりません。このうち、相続欠格と廃除は代襲相続の原因になりますが、相続の放棄は代襲相続の原因になりません。
| 区分 | 内容 | 代襲相続 |
|---|---|---|
| 相続欠格(民法891条) | 被相続人を故意に死亡させて刑に処せられた者や、遺言書を偽造・破棄・隠匿した者などは、当然に相続人となれない | あり |
| 廃除(民法892条・893条) | 被相続人への虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合に、被相続人の請求等に基づき、家庭裁判所が遺留分を有する推定相続人の相続権を失わせる制度(兄弟姉妹には遺留分がないため対象外) | あり |
| 相続の放棄(民法938条・939条) | 家庭裁判所に申述して放棄した人は、初めから相続人とならなかったものとみなされる | なし |
(1) 代襲相続
被相続人の子が、相続開始以前に死亡していた場合や、欠格・廃除により相続権を失った場合には、その子(被相続人の孫)が代わりに相続人となります。孫も同様の場合は、ひ孫が再代襲します。兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲は、その子(甥・姪)までです。
なお、養子縁組前に生まれた養子の子は、原則として養親の直系卑属にならないため、養子を代襲して相続することはできません。ただし、孫を養子にした場合のその孫の子など、縁組前から被相続人の直系卑属である場合は例外があります(民法727条、887条2項)。
(2) 相続の放棄と相続順位の繰上げ
第1順位の子が全員相続を放棄すると、民法上は第2順位の直系尊属が、直系尊属もいないときは第3順位の兄弟姉妹が、相続人となります。放棄した子の子(孫)は、代襲相続人にはなりません。
【注意】相続の放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述して行います。遺産分割で財産を取得しなかっただけの人は、民法上も相続税法上も相続人のままです。
根拠:民法887条2項・3項(代襲相続・再代襲)、889条2項(兄弟姉妹の代襲)、891条(相続人の欠格事由)、892条・893条(推定相続人の廃除)、915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)、938条・939条(相続の放棄の方式・効力)
3. 相続税法上の「相続人」と、計算に使う「法定相続人の数」
相続税法では、同じ「相続人」という言葉でも、規定によって相続を放棄した人を含めるかどうかが異なります。
(1) 相続税法上の「相続人」
相続税法3条1項は、「相続人」を「相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない」と定めています。この意味の相続人は、民法上の相続人とほぼ同じです。
ただし、同項の括弧書きは、第15条(基礎控除)、第16条(相続税の総額)、第19条の2第1項(配偶者の税額軽減)、第19条の3第1項(未成年者控除)、第19条の4第1項(障害者控除)、第63条(養子の数の否認)などを、この定義の対象外としています。
(2) 「法定相続人の数」(相続税法15条2項)
相続税法15条2項は、基礎控除額の計算に使う「相続人の数」を、民法の規定による相続人の数としたうえで、次の2つの調整を加えています。国税庁の解説では、この数を「法定相続人の数」と呼んでいます。
- 相続の放棄があった場合は、その放棄がなかったものとして数える
- 数に含める養子は、実子がいる場合1人、実子がいない場合2人までとする
この「法定相続人の数」は、基礎控除額のほか、生命保険金と死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の計算にも使われます。
| 区分 | 民法上の相続人 | 相続税法上の相続人(相法3条1項) | 法定相続人の数(相法15条2項) |
|---|---|---|---|
| 相続を放棄した人 | 含まない | 含まない | 含める |
| 放棄により繰り上がった後順位の人 | 含む | 含む | 含めない |
| 欠格・廃除により相続権を失った人 | 含まない | 含まない | 含めない(代襲相続人を数える) |
| 養子 | 全員含む | 全員含む | 実子がいれば1人、いなければ2人まで |
| 内縁関係の人 | 含まない | 含まない | 含めない |
【注意】相続を放棄した人は「法定相続人の数」に含めますが、欠格・廃除により相続権を失った人は含めません。「放棄がなかったものとする」のは、相続の放棄だけです。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4152 相続税の計算)
根拠:相続税法3条1項(相続人の定義)、15条(遺産に係る基礎控除)、16条(相続税の総額)、相続税法基本通達3-1、15-2
4. 法定相続人の数の数え方
(1) 養子の数の制限
民法上は、養子が何人いても全員が相続人です。しかし、法定相続人の数に含める養子の数は、次のように制限されます。
| 区分 | 法定相続人の数に含める養子の数 |
|---|---|
| 被相続人に実子がいる場合 | 1人まで |
| 被相続人に実子がいない場合 | 2人まで |
次の人は実子とみなされ、この制限の対象にはなりません。
- 被相続人と特別養子縁組をした人
- 被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となった人(いわゆる連れ子)
- 被相続人と配偶者の婚姻前に配偶者の特別養子となった人で、婚姻後に被相続人の養子となった人
- 実子や養子が死亡していたり相続権を失ったりしたため、代わって相続人となった直系卑属
【注意】養子を法定相続人の数に含めることが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、上記の人数の範囲内であっても、その原因となる養子は数に含められません(相続税法63条)。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4170 相続人の中に養子がいるとき)
(2) その他の数え方
| ケース | 数え方 |
|---|---|
| 子が全員放棄し、父母や兄弟姉妹が民法上の相続人となった場合 | 放棄がなかったものとして、放棄した子を数える(父母や兄弟姉妹は数えない) |
| 相続開始前に死亡した子に代襲相続人がいる場合 | 死亡した子は数えず、代襲相続人(孫)を全員数える |
| 代襲相続人が被相続人の養子でもある場合(二重身分) | 実子1人として数える |
| 申告書の提出までに生まれていない胎児 | 数に含めない |
根拠:相続税法15条2項・3項、63条、相続税法施行令3条の2、相続税法基本通達15-2、15-3、15-4、63-1、63-2
5. 相続税の規定ごとの使い分け
相続税の各規定が、「法定相続人(放棄がなかったものとした相続人)」と「相続人(放棄した人を含まない)」のどちらを基準にしているかをまとめると、次のとおりです。
| 規定 | 基準 | 相続を放棄した人 |
|---|---|---|
| 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数) | 法定相続人の数 | 数に含める |
| 相続税の総額の計算 | 法定相続人の数と法定相続分 | 数に含める |
| 生命保険金・死亡退職金の非課税限度額(各500万円×法定相続人の数) | 法定相続人の数 | 数に含める |
| 生命保険金・死亡退職金の非課税の適用を受ける人 | 相続人 | 適用なし |
| 債務控除 | 相続人・包括受遺者 | 原則適用なし(実際に負担した葬式費用は控除できる) |
| 配偶者の税額軽減 | 配偶者(婚姻の届出をした人) | 遺贈により取得した財産があれば適用あり |
| 未成年者控除・障害者控除 | 法定相続人 | その他の要件を満たせば適用あり |
| 相次相続控除 | 相続人 | 適用なし |
| 相続税額の2割加算 | 一親等の血族・配偶者かどうか | 放棄の有無にかかわらず、被相続人との続柄で判定 |
(1) 生命保険金の非課税
非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」で計算し、放棄した人も数に含めます。一方、非課税の適用を受けられるのは「相続人」が取得した保険金だけです。相続を放棄した人が受け取った保険金は、遺贈により取得したものとみなされ、非課税の適用はありません。死亡退職金も同じです。
【注意】借金が多いために相続を放棄し、受取人として生命保険金だけを受け取る場合、その保険金には非課税の適用がなく、債務控除もできません。相続税の申告が必要になることがあります。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)
(2) 未成年者控除・障害者控除
未成年者控除と障害者控除は、財産を取得した人が法定相続人(放棄がなかったものとした場合の相続人)であることが要件です。そのため、相続を放棄した未成年者が遺贈や生命保険金で財産を取得した場合も、その他の要件を満たせば、控除を受けられます。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4164 未成年者の税額控除)
(3) 相次相続控除・債務控除
相次相続控除は、相続人であることが要件です。相続を放棄した人や相続権を失った人は、遺贈により財産を取得しても適用を受けられません。債務控除も、放棄した人には原則として適用されませんが、放棄した人が実際に葬式費用を負担した場合は、遺贈により取得した財産の価額から控除できます。
(4) 配偶者の税額軽減・2割加算
配偶者の税額軽減は、配偶者が相続を放棄した場合でも、遺贈により取得した財産があれば適用されます。ただし、内縁関係の人は配偶者に当たりません。
2割加算は、相続人かどうかではなく、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫などを含む)と配偶者以外の人が対象です。孫を養子にした場合、その孫は民法上は第1順位の相続人ですが、代襲相続人でない限り、2割加算の対象になります。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.4157 相続税額の2割加算)
根拠:相続税法3条1項、12条1項(生命保険金・退職手当金等の非課税)、13条(債務控除)、15条、16条、18条(相続税額の加算)、19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)、19条の3(未成年者控除)、19条の4(障害者控除)、20条(相次相続控除)、相続税法基本通達13-1、19の2-2、19の2-3、20-1
6. 事例
被相続人Aの家族が次のとおりで、長男Cが家庭裁判所で相続を放棄した場合を考えます。生命保険金は、被相続人Aを被保険者とし、保険料の全額をAが負担していたものとします。
- 配偶者B
- 長男C(相続を放棄。受取人として生命保険金1,000万円を受取り)
- 長女D(受取人として生命保険金1,000万円を受取り)
- 孫E(長女Dの子。Aと普通養子縁組)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 民法上の相続人 | B・D・Eの3人(Cは放棄により相続人でない) |
| 法定相続人の数 | B・C・D・Eの4人(放棄がなかったものとしてCを含める。養子はEの1人のみで制限内) |
| 基礎控除額 | 3,000万円+600万円×4人=5,400万円 |
| 相続税の総額の計算上の法定相続分 | B 2分の1、C・D・E 各6分の1 |
| 生命保険金の非課税限度額 | 500万円×4人=2,000万円 |
| Dの生命保険金 | 1,000万円の全額が非課税(相続人が受け取った保険金の合計1,000万円が限度額以下) |
| Cの生命保険金 | 1,000万円の全額が課税対象(放棄した人は非課税の適用なし) |
| Eが財産を取得した場合の2割加算 | 対象(孫養子で、代襲相続人ではない) |
このように、同じ相続でも、民法上の相続人は3人、法定相続人の数は4人となります。
なお、Cが放棄ではなく相続欠格や廃除により相続権を失った場合は、Cは法定相続人の数に含めません。Cに子がいれば、その子が代襲相続人として民法上の相続人となり、法定相続人の数にも含めます。
【注意】相続税の申告書では、法定相続人の数と、各人が「相続人」に当たるかどうかを、それぞれ判定します。放棄した人や孫養子がいる場合は、特に注意が必要です。
7. まとめ
- 民法上の相続人は、配偶者と、第1順位の子・第2順位の直系尊属・第3順位の兄弟姉妹です(民法887条、889条、890条)。一般に「法定相続人」と呼ばれますが、民法の条文上の用語は「相続人」です。
- 相続を放棄した人は、初めから相続人とならなかったものとみなされ、代襲相続も生じません(民法939条)。欠格・廃除の場合は代襲相続が生じます。
- 相続税法3条1項でいう「相続人」には、相続を放棄した人と相続権を失った人を含みません。ただし、基礎控除額などの計算では、相続放棄がなかったものとして人数を数えます。
- 基礎控除額、相続税の総額、生命保険金・死亡退職金の非課税限度額は、放棄がなかったものとした「法定相続人の数」で計算します(相続税法15条2項)。
- 法定相続人の数に含める養子は、実子がいる場合1人、いない場合2人までです。特別養子や配偶者の連れ子などは実子とみなされます。
- 相続を放棄した人が受け取った生命保険金・死亡退職金には非課税の適用がなく、相次相続控除も受けられません。債務控除も原則として受けられませんが、実際に負担した葬式費用は控除できる場合があります。未成年者控除・障害者控除や配偶者の税額軽減は、相続を放棄していても、財産の取得その他の要件を満たせば適用を受けられます。
- 孫養子は民法上は第1順位の相続人ですが、代襲相続人でない限り、相続税額の2割加算の対象です(相続税法18条)。
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