生命保険を減額して解約返戻金を受け取った場合の取扱い~個人は先取方式、法人は按分方式

はじめに
貯蓄性のある生命保険の保険金額を減額すると、減額した部分に対応する解約返戻金(清算金・払戻金)を受け取ることができます。
生命保険を全部解約せずに資金を手にできるため、個人契約・法人契約のどちらでもよく使われる方法です。
この減額で受け取った解約返戻金の税務上の取扱いは、個人と法人で考え方が異なります。
- 個人:既払保険料を、受け取った解約返戻金の額に達するまで先に差し引く「先取方式」
- 法人:減額割合に応じて資産計上している保険料(保険積立金)を取り崩す「按分方式」
この記事では、それぞれの根拠となる法令・通達・国税庁の質疑応答事例と、同じ条件で比較した計算事例をまとめます。
【注意】個人は保険料の負担者と返戻金の受取人が同じ場合、法人は法人自身が契約者・返戻金の受取人である場合を前提にしています。
1. 保険金額の減額と解約返戻金の課税関係
保険金額の減額は、契約の一部を解約するのと同じです。たとえば保険金額2,000万円の契約を1,000万円に減額すると、減額した1,000万円分に対応する解約返戻金が支払われ、残りの1,000万円分の契約はそのまま続きます。
| 区分 | 解約返戻金の課税関係 | 差し引く金額 |
|---|---|---|
| 個人(保険料負担者=受取人) | 一時所得(特別控除最高50万円、2分の1課税) | 既払保険料(先取方式) |
| 法人(法人=契約者・受取人) | 益金(雑収入) | 資産計上している保険積立金等(按分方式) |
【注意】個人間で、保険料負担者が存命中に、保険料負担者以外の人が返戻金を受け取る場合は、一時所得ではなく贈与税の問題になります。また、個人が受け取る差益のうち、一時払養老保険等で一定の要件を満たすもの(保険期間等が5年以下のもの、保険期間等の初日から5年以内に解約されたものなど)は、金融類似商品として20.315%の源泉分離課税が適用されます。この場合も所得区分は一時所得のままですが、源泉徴収で課税関係が完結するため、50万円の特別控除や2分の1課税は適用されず、確定申告にも含めません。
根拠:所得税法22条2項2号、34条、所得税基本通達34-1(4)、法人税法22条、相続税法5条2項、相続税法基本通達5-6・3-39、所得税法174条、209条の2、租税特別措置法41条の10、国税庁タックスアンサーNo.1520 金融類似商品と税金
2. 個人の取扱い(先取方式)
以下は、金融類似商品として源泉分離課税となるものを除き、総合課税の一時所得として扱われる場合の説明です。金融類似商品に該当する一定の保険の差益は、源泉徴収で課税関係が完結するため、一般の一時所得の計算とは区別します。
(1) 一時所得の計算
個人が受け取る減額の返戻金は、保険料の負担者と受取人が同じであれば一時所得です。
一時所得の金額 = 総収入金額 - その収入を得るために支出した金額 - 特別控除(最高50万円)
総所得金額に算入するのは、その2分の1です。
(2) 減額時に差し引く保険料=先取方式
所得税法施行令183条2項は、生命保険の一時金に係る「支出した金額」を保険料の総額(既に受け取った契約者配当金(剰余金の分配等)がある場合は調整が必要です)と定めていますが、保険金額を減額した場合の計算は明文で定めていません。そこで国税庁は、質疑応答事例で次の2案を示し、A案(先取方式)によるとしています。
| 案 | 差し引く保険料 | 国税庁の結論 |
|---|---|---|
| A案(先取方式) | 既払保険料のうち、清算金の金額に達するまでの金額 | こちらを採用 |
| B案(按分方式) | 既払保険料×減額部分の保険金額÷減額前の保険金額 | 採用しない |
今回差し引く保険料 = 今回の返戻金と、まだ差し引いていない既払保険料のいずれか少ない金額
既払保険料を使い切るまでは、返戻金と同額を差し引くため、一時所得は生じません。既払保険料を超えた部分だけが一時所得になります。
(3) 国税庁が先取方式とする理由
- 一時所得は臨時・偶発的な所得であり、継続的な収入を前提とする按分方式は計算になじまない。
- 生存給付金付養老保険や契約転換の場合にも、既払保険料のうち一時金の額に達するまでの金額を差し引く取扱いをしており、減額だけ異なる取扱いをする理由はない。
タックスアンサーNo.1755のQ2も、一時払終身保険を減額した場合について同じ取扱いを示しています。
【注意】一度差し引いた保険料は、後日の減額・解約・満期のときに再び差し引くことはできません。先取方式では、受け取った返戻金が未控除の既払保険料を超える場合、その超える部分が差益となります。受取額によっては、最後の解約・満期の年に差益が集中することがあります。過去に差し引いた保険料の履歴を記録しておくことが大切です。
根拠:所得税法22条2項2号、34条2項・3項、所得税法施行令183条2項、所得税基本通達34-1(4)、昭53直資2-36(契約転換制度)、国税庁質疑応答事例「一時払養老保険の保険金額を減額した場合における清算金等に係る一時所得の金額の計算」、タックスアンサーNo.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき(Q&A)
3. 法人の取扱い(按分方式)
(1) 減額部分に対応する資産を取り崩す
法人では、保険の種類や契約内容に応じて、保険料の全部又は一部を保険積立金・前払保険料として資産計上します。全額を損金算入している契約など、資産残高がない場合もあります(この場合は取り崩す資産がないため、受け取った返戻金は原則として全額が益金になります)。保険金額を減額すると、減額した部分の契約は消滅し、残りの契約は続きます。そこで、消滅した部分に対応する資産だけを取り崩し、受け取った返戻金との差額を雑収入(又は雑損失)にします。減額後も資産計上割合等が変わらず、保険金額の減額割合に応じて資産を比例配分できる場合は、次の算式で計算します。
取崩額 = 減額直前の税務上の資産計上額 × 減額した保険金額 ÷ 減額前の保険金額
雑収入(雑損失) = 受け取った返戻金 - 取崩額
(2) 根拠
法人の取扱いは、法人税法22条の所得計算の原則と、保険料の資産計上に関する通達から導かれる処理です。
| 根拠 | 内容 |
|---|---|
| 法人税法22条2項 | 解約返戻金等の収益を益金に算入 |
| 法人税法22条3項・4項 | 損金の額の計算と、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準による計算 |
| 法人税基本通達9-3-4(1) | 死亡保険金・生存保険金の受取人が法人である養老保険は、保険契約が終了する時まで保険料を資産に計上 |
| 法人税基本通達9-3-5の2(注)5 | 定期保険等の契約内容の変更があった場合、変更後の契約内容で取扱いを適用し、責任準備金相当額の精算時は、変更後の契約内容で計算した資産計上額の累積額と既往の累積額との差額を調整 |
【注意】法人税基本通達9-3-4に、減額時の按分の算式がそのまま書かれているわけではありません。按分方式は、存続する契約に対応する保険料を資産として残すという通達の考え方と、法人税法22条から導かれる実務上の取扱いです。個人のように先取方式で保険積立金を全額取り崩すと、減額した部分と残った資産が対応しなくなり、税務調査で否認されるおそれがあります。
(3) 定期保険等で一部を損金算入している場合
按分する対象は、既払保険料の総額ではなく、減額直前の税務上の資産計上額です。最高解約返戻率に応じて保険料の一部を損金算入している定期保険等(法人税基本通達9-3-5の2)では、過去に損金算入した保険料を返戻金から再度差し引くことはできません。また、減額により資産計上割合等も変わる場合は、単純な保険金額の按分ではなく、変更後の契約内容に基づく再計算が必要です((注)5)。
なお、法人税基本通達9-3-7の2は「払済保険への変更」の取扱い(変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を益金又は損金に算入)であり、通常の減額の直接の根拠とは区別します。
根拠:法人税法22条2項・3項・4項、法人税基本通達9-3-4、9-3-5の2、9-3-7の2、国税庁「法人税基本通達 第9章第3節 保険料等」
4. 計算事例
(1) 共通の前提
個人と法人の違いを分かりやすくするため、同じ条件で計算します。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 保険の種類 | 一時払養老保険(契約から5年超経過、金融類似商品には該当しない) |
| 既払保険料 | 1,000万円 |
| 減額前の保険金額 | 2,000万円 |
| 減額後の保険金額 | 1,000万円(減額割合50%) |
| 減額時の返戻金 | 600万円 |
| 法人の減額直前の資産計上額 | 1,000万円(全額資産計上) |
| その他 | 配当金・契約者貸付・追加保険料なし。個人に他の一時所得なし |
(2) 個人:先取方式
- 差し引く保険料:返戻金600万円と既払保険料1,000万円のいずれか少ない金額=600万円
- 一時所得:600万円-600万円=0円
- 将来の解約・満期時に差し引ける保険料:1,000万円-600万円=400万円
減額割合50%を使って差し引く保険料を500万円とする計算(按分方式)は行いません。
(3) 法人:按分方式
- 取崩額:1,000万円×50%=500万円
- 雑収入:600万円-500万円=100万円
- 減額後に残る保険積立金:500万円
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 600万円 | 保険積立金 | 500万円 |
| 雑収入 | 100万円 |
(4) 後日、残りを700万円で全部解約した場合
減額とは別の年(事業年度)に、残りの契約を700万円で解約したとします。
- 個人:一時所得=700万円-400万円-50万円=250万円、総所得金額に算入する額=250万円×1/2=125万円
- 法人:雑収入=700万円-500万円=200万円
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 減額時の返戻金 | 600万円 | 600万円 |
| 減額時に差し引く額(取崩額) | 600万円 | 500万円 |
| 減額時の差益 | 0円 | 100万円 |
| 全部解約時の返戻金 | 700万円 | 700万円 |
| 全部解約時に差し引く額 | 400万円 | 500万円 |
| 全部解約時の差益 | 300万円 | 200万円 |
| 差益の合計 | 300万円 | 300万円 |
契約全体の差益はどちらも300万円で同じですが、この例では、個人は最後の解約時にまとめて、法人は減額時と解約時に分けて差益が認識されます。なお、個人の差益300万円は特別控除前の金額です。最高50万円の特別控除と2分の1課税は個人の一時所得の制度であり、法人にはありません。
(5) 法人が保険料の一部を損金算入している場合
定期保険等で、既払保険料1,000万円のうち600万円を損金算入済み、資産計上額(前払保険料)が400万円の契約を、50%減額して返戻金300万円を受け取った場合です(減額後も資産計上割合等が変わらず、比例計算できるものとします)。
- 取崩額:400万円×50%=200万円
- 雑収入:300万円-200万円=100万円
仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 300万円 | 前払保険料 | 200万円 |
| 雑収入 | 100万円 |
【注意】過去に損金算入した600万円を、返戻金から再度差し引くことはできません。法人税基本通達9-3-5の2の対象契約では、変更後の契約内容で計算した資産計上額の累積額が200万円になるかも確認します。
(6) 参考:個人が減額を繰り返した場合
払込保険料総額600万円(払込完了)の契約を、当初の保険金額の3分の1相当額ずつを1年目・2年目に減額し、3年目に残りの全部を解約した場合です。各年の受取額は300万円(合計900万円)と仮定します。金融類似商品には該当せず、他の一時所得はないものとします。
| 年 | 先取方式(正しい取扱い) | 按分方式(認められない) |
|---|---|---|
| 1年目 | 300万円-300万円=0円 | 300万円-200万円-50万円=50万円→25万円 |
| 2年目 | 300万円-300万円=0円 | 同上25万円 |
| 3年目 | 保険料は累計600万円を差し引き済み。300万円-0円-50万円=250万円→125万円 | 同上25万円 |
| 総所得金額に算入する額の合計 | 125万円 | 75万円 |
この例では、先取方式による差益が3年目にだけ生じるため、この契約の差益に対して利用できる特別控除は、3年目の最高50万円となります。按分方式で計算すると、この例では総所得金額に算入する額が小さくなりますが、この計算は認められません。
5. 個人と法人の比較と実務上の注意点
(1) 比較表
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 計算方法 | 先取方式 | 按分方式 |
| 差し引く金額 | 過去に差し引いていない既払保険料の残額と、今回の返戻金の額のいずれか少ない金額 | 減額直前の税務上の資産計上額×減額割合(単純な比例減額の場合) |
| 所得区分・処理 | 一時所得(特別控除最高50万円、2分の1課税) | 雑収入又は雑損失 |
| 主な根拠 | 所得税法34条、所得税法施行令183条2項、国税庁の質疑応答事例・No.1755 | 法人税法22条、法人税基本通達9-3-4、9-3-5の2 |
| 差益を認識する時期 | 受け取った返戻金が未控除の既払保険料を超える場合、その超える部分が差益 | 各減額時に、返戻金と対応する資産取崩額との差額を損益として認識 |
(2) 実務上の注意点
- 個人は、減額のたびに差し引いた保険料の累計を記録しておきましょう。解約・満期時に差し引ける保険料は、既払保険料からその累計を差し引いた残額です。
- 個人は、同じ年に満期保険金など他の一時所得がある場合、それらを合算して特別控除(最高50万円)を差し引きます。
- 法人は、保険積立金・前払保険料など、資産の内訳ごとに台帳残高を確認して取崩額を計算します。配当金積立金は、今回払い出されるか残存するかを別途確認します。
- 特約や複数の保障がある契約は、減額した部分に対応する保険料・資産を特定して計算します。
- 外貨建て保険は円換算が必要です。
- 保険会社の減額計算書と、個人なら過去に差し引いた保険料の履歴、法人なら税務上の資産残高を照合しましょう。
【注意】個人間で、保険料負担者が存命中に、保険料を負担していない人が返戻金を受け取る場合(たとえば親が保険料を負担し、子が返戻金を受け取る場合)は、返戻金は贈与税の対象になります。減額をする前に、契約者・保険料負担者・受取人を確認してください。
6. 根拠法令・通達一覧
| 区分 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 個人 | 所得税法34条1項・2項・3項 | 一時所得の範囲と計算、特別控除最高50万円 |
| 個人 | 所得税法22条2項2号 | 一時所得の2分の1を総所得金額に算入 |
| 個人 | 所得税法施行令183条2項 | 生命保険の一時金に係る「支出した金額」は原則として既払保険料の総額(既受領の契約者配当金(剰余金の分配等)がある場合は調整) |
| 個人 | 所得税基本通達34-1(4) | 生命保険の一時金は一時所得 |
| 個人 | 国税庁質疑応答事例・タックスアンサーNo.1755 Q2 | 減額の清算金は先取方式(A案)で計算 |
| 個人 | 昭53直資2-36 | 契約転換時にも既払保険料を収入金額に達するまで差し引く |
| 法人 | 法人税法22条2項・3項・4項 | 益金・損金の計算と公正処理基準 |
| 法人 | 法人税基本通達9-3-4 | 養老保険の保険料の資産計上 |
| 法人 | 法人税基本通達9-3-5の2 | 定期保険等の資産計上と、契約内容の変更時の調整((注)5) |
| 法人 | 法人税基本通達9-3-7の2 | 払済保険への変更(減額とは区別) |
| 個人 | 所得税法174条、209条の2、租税特別措置法41条の10 | 個人の金融類似商品の差益の源泉分離課税(法人は源泉徴収されても、法人税の所得計算と所得税額控除を行う) |
| 個人 | 相続税法5条2項、相続税法基本通達5-6・3-39 | 保険料負担者以外が受け取る場合の贈与税 |
まとめ
- 個人が保険金額を減額して受け取った返戻金は、既払保険料を返戻金の額に達するまで先に差し引く先取方式で計算します。受け取った返戻金が未控除の既払保険料を超える場合、その超える部分が差益となります。
- 個人の先取方式は、国税庁の質疑応答事例とタックスアンサーNo.1755で示されています。按分方式は一時所得の計算になじまないとされています。
- 法人は、単純な比例減額の場合、減額割合に応じて資産計上している保険積立金等を取り崩し、返戻金との差額を雑収入又は雑損失にします。
- 法人の按分方式は、法人税法22条と保険料の資産計上に関する通達から導かれる処理で、按分の算式を直接定めた通達はありません。
- 法人が保険料の一部を損金算入している場合は、既払保険料ではなく税務上の資産計上額を按分します。
- 契約全体の差益は同じでも、個人は受け取った返戻金が未控除の既払保険料を超える場合にその超える部分が差益となり、法人は各減額時に、返戻金と対応する資産取崩額との差額を損益として認識します。
当事務所では、生命保険の減額・解約に伴う個人の一時所得の計算や、法人の保険積立金の取崩しと経理処理のご相談をお受けしております。契約形態や過去の減額の履歴を確認したうえでご説明しますので、お気軽にご相談ください。
※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別の事案の取扱いについては、当事務所にご相談ください。








