暦年贈与と相続時精算課税制度(2つの贈与方法)

贈与 ポイント

はじめに

親や祖父母から生前に財産をもらう(贈与を受ける)と、原則として贈与税がかかります。贈与税の課税方法には、「暦年贈与(暦年課税)」 と 「相続時精算課税制度」 の二つがあります。

相続時精算課税制度は、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が設けられるなど、使いやすい制度になりました。一方で、一度選択すると暦年贈与に戻れないなど、選択前に知っておくべき注意点もあります。

本記事では、贈与税と相続税の関係を確認したうえで、二つの贈与の方法の仕組みと違い、選択のポイントを根拠条文とあわせて整理します。

1. 贈与税は相続税法に規定された「相続税の補完税」

(1)贈与税は「贈与税法」ではなく相続税法に定められている

所得税には所得税法、法人税には法人税法がありますが、「贈与税法」という法律はありません。贈与税の納税義務者、課税財産、税率などの基本的な規定は 相続税法 に定められ、暦年課税の基礎控除110万円や特例税率などの特例は、租税特別措置法などに定められています。

項目 相続税法の規定
贈与税の納税義務者 相続税法1条の4
贈与税の課税価格(暦年課税) 相続税法21条の2
贈与税の基礎控除(暦年課税) 相続税法21条の5(租税特別措置法70条の2の4により110万円)
相続時精算課税の選択 相続税法21条の9
贈与税の申告 相続税法28条

(2)なぜ相続税法に規定されているのか

もし贈与税がなければ、亡くなる前に財産を家族に贈与しておくことで、相続税を簡単に逃れることができてしまいます。そこで、生前の贈与に対して課税し、相続税の課税を補う役割を果たしているのが贈与税です。このため、贈与税は 「相続税の補完税」 といわれ、相続税と同じ相続税法に規定されています。

暦年課税の贈与税の税率が、同じ金額の財産を相続した場合に比べて高く設定されているのも、生前贈与による相続税の回避を防ぐためです。

(3)贈与税がかかるのは「個人から」の贈与

贈与税は、個人から贈与により財産を取得した場合にかかります。法人から財産をもらった場合は、贈与税ではなく所得税(一時所得や給与所得など)の対象となります。

【注意】贈与税は、財産をもらった人(受贈者)が申告・納付します。財産をあげた人(贈与者)ではありません。

根拠:相続税法1条の4、21条の2、21条の3第1項1号、21条の5、21条の9、28条

2. 暦年贈与(暦年課税)の仕組み

(1)年110万円の基礎控除

暦年課税では、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた残額に贈与税がかかります。110万円は、財産をもらった人(受贈者)ごとの金額です。父と母の両方から暦年課税で贈与を受けた場合も、合計で110万円となります。

その年にもらった財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。110万円を超える場合は、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納付が必要です。

(2)税率(一般税率と特例税率)

祖父母や父母などの直系尊属から、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の子や孫が受けた贈与には、「特例税率」が適用されます。それ以外の贈与(兄弟間、夫婦間、配偶者の父母からの贈与、未成年の子への贈与など)は「一般税率」です。

基礎控除後の課税価格 特例税率 控除額 一般税率 控除額
200万円以下 10% ― 10% ―
300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
400万円以下 15% 10万円 20% 25万円
600万円以下 20% 30万円 30% 65万円
1,000万円以下 30% 90万円 40% 125万円
1,500万円以下 40% 190万円 45% 175万円
3,000万円以下 45% 265万円 50% 250万円
4,500万円以下 50% 415万円 55% 400万円
4,500万円超 55% 640万円 55% 400万円

(計算例)18歳以上の子が、親から暦年課税で500万円の現金の贈与を受けた場合

項目 金額
課税価格 500万円 − 110万円 = 390万円
贈与税額(特例税率) 390万円 × 15% − 10万円 = 48万5,000円

(3)相続開始前の贈与は相続財産に加算(3年から7年への延長)

暦年課税で贈与を受けた人が、その贈与者から相続や遺贈で財産を取得した場合には、相続開始前の一定期間内の贈与財産は、相続税の課税価格に加算されます(支払った贈与税は相続税から控除)。令和5年度の税制改正で、この加算期間が相続開始前3年以内から7年以内に延長されました。令和6年1月1日以後の贈与が対象で、段階的に延びていきます。

相続開始日 加算対象期間
令和8年12月31日まで 相続開始前3年以内
令和9年1月1日から令和12年12月31日まで 令和6年1月1日から相続開始日まで
令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内

延長された期間(相続開始前3年より前の期間)に受けた贈与については、その合計額から総額100万円を差し引いた金額を加算します。

【注意】加算の対象になるのは、相続や遺贈で財産を取得した人が受けた贈与です。たとえば、相続人ではない孫が、遺贈や生命保険金の受取などで財産を取得しない場合には、孫への暦年贈与は加算されません。ただし、相続時精算課税で贈与を受けた人は、相続や遺贈で財産を取得しなくても加算の対象者に含まれます。このため、相続時精算課税を選択した場合でも、選択前に同じ贈与者から受けた暦年課税の贈与が加算対象期間内にあるときは、生前贈与加算の対象になる場合があります(孫が相続時精算課税を選択した場合も同様です)。

根拠:相続税法19条、21条の2、21条の5、21条の7、28条、租税特別措置法70条の2の4、70条の2の5、令和5年改正法附則19条

3. 相続時精算課税制度の仕組み

(1)制度の考え方

相続時精算課税制度は、贈与の時点では低い贈与税を納め、贈与者が亡くなったときに、その贈与財産を相続財産に加えて相続税で精算する制度です。生前にまとまった財産を次の世代へ移しやすくすることを目的としています。

(2)適用要件

項目 要件
贈与者 原則として、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母など(住宅取得等資金の特例あり)
受贈者 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、贈与者の直系卑属である推定相続人(子など)または孫
手続 最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署に提出

【注意】住宅取得等資金の贈与について一定の要件を満たす場合は、贈与者がその年の1月1日において60歳未満であっても、相続時精算課税を選択できる特例があります。現行の特例は、令和8年12月31日までの贈与が対象です(租税特別措置法70条の3)。

(3)贈与税の計算

相続時精算課税を選択した贈与者(「特定贈与者」といいます)からの贈与は、次のように計算します。

項目 内容
基礎控除 年110万円(令和6年1月1日以後の贈与)
特別控除 特定贈与者ごとに累計2,500万円(前年以前に使った額を除く。期限内申告が要件)
税率 特別控除を超えた部分に一律20%

【注意】2,500万円の特別控除は、贈与税の申告書を期限内に提出した場合に限り適用できます。基礎控除を超える贈与を受けた場合は、特別控除により税額がゼロになっても申告が必要です。「相続時精算課税選択届出書」(最初の年に一度だけ提出)と、毎年の「贈与税の申告書」は別の書類です。

(計算例)18歳以上の子が、60歳以上の親から相続時精算課税で3,000万円の現金の贈与を受けた場合(初年)

項目 金額
基礎控除後の金額 3,000万円 − 110万円 = 2,890万円
特別控除後の金額 2,890万円 − 2,500万円 = 390万円
贈与税額 390万円 × 20% = 78万円

同じ金額を暦年課税(特例税率)で贈与すると、贈与税は2,890万円 × 45% − 265万円 = 1,035万5,000円となります。

(4)相続のときに精算する

特定贈与者が亡くなったときは、相続時精算課税で贈与を受けた財産を、何年前の贈与であっても相続財産に加算して相続税を計算します。加算する額は、令和6年1月1日以後の贈与については、贈与時の価額から年110万円の基礎控除を差し引いた残額です。なお、贈与者の死亡時に相続や遺贈で財産を取得しなくても、相続時精算課税の対象となる贈与財産は、相続税の計算に含めます。

すでに納めた贈与税は相続税から控除され、控除しきれない金額は、相続税の申告をすることで還付を受けられます。

【注意】相続財産に加算するのは、相続開始時の価額ではなく贈与時の価額です。将来値上がりが見込まれる財産を贈与すると有利になる一方、値下がりした場合でも贈与時の高い価額で加算されます。

根拠:相続税法21条の9~21条の16、33条の2、租税特別措置法70条の2の6、70条の3、70条の3の2

4. 令和5年度改正で相続時精算課税が使いやすくなった

令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税制度が次のように見直されました。

改正項目 改正前 改正後(令和6年1月1日以後の贈与)
基礎控除 なし(少額でも特別控除を使い、申告が必要) 年110万円の基礎控除を創設(特別控除2,500万円とは別枠)
贈与税の申告 贈与を受けた年は金額にかかわらず申告が必要 年110万円以下の贈与であれば申告は不要
相続財産への加算 贈与財産の全額を加算 基礎控除110万円を差し引いた残額を加算(110万円以下の部分は加算不要)
土地・建物の災害 贈与時の価額で加算 贈与後に災害で一定の被害を受けた場合は、被害額を控除した価額で加算

特に、年110万円の基礎控除は、相続のときにも加算されない点が大きな違いです。暦年課税の110万円は、相続開始前7年以内の贈与であれば加算の対象になりますが、相続時精算課税の110万円は、相続の直前の贈与であっても加算されません。

【注意】同じ年に2人以上の特定贈与者(たとえば父と母の両方)から相続時精算課税で贈与を受けた場合、110万円は各人に110万円ずつではなく、特定贈与者ごとの贈与額で按分します。

【注意】110万円以下の贈与で申告が不要な場合でも、初めて相続時精算課税を選択する年には、翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。

根拠:租税特別措置法70条の3の2、70条の3の3、相続税法21条の9、21条の15、21条の16、28条、令和5年改正法附則19条

5. 一度選択すると暦年贈与には戻れない

相続時精算課税を選択すると、その特定贈与者からの贈与については、選択した年以後の贈与にすべて相続時精算課税が適用されます。選択届出書は撤回することができず、暦年課税に戻ることはできません。

項目 取扱い
選択の影響 その特定贈与者からの以後の贈与は、すべて相続時精算課税
暦年課税への変更 できない(選択届出書は撤回不可)
相続財産への加算 年110万円の基礎控除を超える部分は、何年前の贈与でも加算

【注意】選択後は、その贈与者からの贈与に暦年課税の基礎控除を使うことはできません。ただし、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除があり、その控除部分は相続時に加算されません。また、特別控除2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。選択する前に、将来の相続税も含めて試算することが大切です。

根拠:相続税法21条の9第3項・第6項

6. 贈与する人ごとに選べる

相続時精算課税は、受贈者が 贈与者ごとに 選択します。このため、同じ子でも、父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税、という使い分けができます。また、兄弟姉妹でもそれぞれが自分で選択するため、長男は相続時精算課税、次男は暦年課税ということも可能です。

(例)子が、父と母からそれぞれ贈与を受ける場合

贈与者 課税方法 贈与税の計算
父(70歳) 相続時精算課税を選択 年110万円の基礎控除、累計2,500万円の特別控除、超過部分に20%
母(65歳) 暦年課税(選択しない) 年110万円の基礎控除、特例税率

この場合、子は、相続時精算課税の110万円と暦年課税の110万円を、それぞれ別に使うことができます。

【注意】相続時精算課税は、原則として贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上の子や孫であることが要件です。配偶者の父母(義理の父母)からの贈与など、直系尊属以外からの贈与には選択できません(養子縁組をしている場合を除きます)。

根拠:相続税法21条の9、21条の10、租税特別措置法70条の3の2

7. 二つの方法の比較と選択のポイント

(1)比較表

項目 暦年課税 相続時精算課税
贈与者・受贈者 制限なし 原則として贈与者60歳以上、受贈者18歳以上の子・孫など
基礎控除 年110万円(受贈者ごと) 年110万円(特定贈与者が複数なら按分)
特別控除 なし 累計2,500万円
税率 10%~55%の累進税率 一律20%
届出 不要 選択届出書の提出が必要
相続財産への加算 相続開始前7年以内(段階的に延長)の贈与 基礎控除後の全額(期間の制限なし)
加算する価額 贈与時の価額 贈与時の価額
暦年課税への変更 ― できない

(2)相続時精算課税が向いているケース

ケース 理由
相続税がかからない、または少ないと見込まれる 生前にまとまった財産を移しても、相続時に税負担が増えにくい
将来の値上がりが見込まれる財産がある 加算されるのは贈与時の価額
賃貸不動産など収益を生む財産がある 贈与後の収益は受贈者のものになり、贈与者の財産が増えない
年110万円以内の少額の贈与を続けたい 基礎控除内の贈与は申告不要で、相続直前でも加算されない

(3)暦年課税が向いているケース

ケース 理由
相続税の税率が高く、長期間の贈与ができる 加算期間(7年)より前の贈与は相続財産に加算されない
相続人ではない孫などに贈与する 相続や遺贈で財産を取得しなければ、加算の対象にならない(その孫が同じ贈与者について相続時精算課税を選択した場合を除く)
贈与者や受贈者が年齢要件を満たさない 原則として相続時精算課税を選択できない(住宅取得等資金の特例を除く)

【注意】相続時精算課税で贈与を受けた土地には、相続のときに「小規模宅地等の特例」を適用することができません。また、不動産を贈与すると、相続で取得する場合に比べて登録免許税や不動産取得税の負担が大きくなります。

【注意】どちらの方法でも、贈与契約書の作成や、受贈者名義の口座を受贈者自身が管理するなど、贈与が実際に行われたことを示せるようにしておくことが大切です。

【注意】孫が相続時精算課税を選択した場合、その孫は相続や遺贈で財産を取得しなくても、祖父母の相続のときに精算課税による贈与財産について相続税を負担することがあります。代襲相続人ではない孫の相続税額は、原則として2割加算の対象になります。

根拠:相続税法19条、21条の9~21条の16、相続税法18条(2割加算)、租税特別措置法69条の4(小規模宅地等の特例)、70条の3(住宅取得等資金の特例)

8. 根拠法令

項目 根拠
贈与税の納税義務者 相続税法1条の4
暦年課税の課税価格・基礎控除・税率 相続税法21条の2、21条の5、21条の7、租税特別措置法70条の2の4、70条の2の5
相続開始前7年以内の贈与の加算 相続税法19条、令和5年改正法附則19条
相続時精算課税の選択・撤回不可 相続税法21条の9
相続時精算課税の特別控除・税率 相続税法21条の12、21条の13
相続時精算課税の基礎控除 租税特別措置法70条の3の2
相続時の精算 相続税法21条の14~21条の16、33条の2
災害による土地・建物の価額の特例 租税特別措置法70条の3の3
贈与税の申告 相続税法28条
住宅取得等資金の相続時精算課税選択の特例 租税特別措置法70条の3
相続税額の2割加算 相続税法18条

参考(国税庁・e-Gov)

まとめ

  • 贈与税は相続税法に規定されており、生前贈与による相続税の回避を防ぐ「相続税の補完税」です。
  • 贈与税の課税方法には、暦年課税(年110万円の基礎控除、累進税率)と相続時精算課税(累計2,500万円の特別控除、一律20%、相続時に精算)の二つがあります。
  • 令和5年度改正で、令和6年1月1日以後の贈与から相続時精算課税に年110万円の基礎控除が設けられ、110万円以下の贈与は申告不要、相続時にも加算不要になりました。一方で、暦年課税の相続前贈与の加算期間は3年から7年に延長されています。
  • 相続時精算課税は、一度選択するとその贈与者からの贈与について暦年課税に戻ることはできません。
  • 相続時精算課税は贈与者ごとに選択するため、父からは相続時精算課税、母からは暦年課税といった使い分けができます。

当事務所では、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かの試算や、贈与税・相続税の申告、生前贈与の計画などのご相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。

※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別の事案の取扱いについては、税理士等の専門家にご相談ください。

関連記事

  1. ビットコインと電卓

    個人が暗号資産を売却等した場合の税務

  2. 保険税務 個人

    個人で契約した生命保険の税金 ~加入から保険金受取り・解約・贈与…

PAGE TOP
目次