相続税で控除できる葬式費用・できない葬式費用

お葬式

はじめに

相続税を計算するときは、相続した財産の価額から、亡くなった方の借入金などの債務とあわせて「葬式費用」を差し引くことができます。葬儀社への支払やお寺へのお布施など、葬儀ではまとまった支出があるため、葬式費用を正しく控除することは相続税の負担に直結します。

一方で、香典返しや墓石の購入費、四十九日などの法要の費用のように、葬儀に関係していても控除できない費用もあります。

この記事では、相続税法・相続税法基本通達・国税庁タックスアンサーをもとに、控除できる葬式費用とできない葬式費用を整理します。
あわせて、葬式費用は遺産分割協議書に記載しなくてもよい理由についても解説します。

1. 葬式費用を控除できる人

葬式費用を控除できるのは、相続人と包括受遺者のうち、実際に葬式費用を負担した人です。控除できる金額は、その人が実際に負担した金額です。

取得した人 葬式費用の控除
相続人・包括受遺者(日本国内に住所がある人など、無制限納税義務者) できる
相続を放棄した人 原則できない。ただし、実際に葬式費用を負担した場合は、遺贈で取得した財産(死亡保険金など)から控除できる
相続人でない特定受遺者(「この土地を遺贈する」など特定の財産を受けた人) できない
制限納税義務者(日本国内に住所がなく、国内財産のみが課税対象となる人) できない
相続時精算課税を適用している相続人 できる

【注意】海外に住んでいる相続人が制限納税義務者に当たる場合、その人が葬式費用を負担しても控除できません。相続税法は、制限納税義務者が差し引けるものを国内財産に係る公租公課や担保付債務などに限っており、葬式費用は含まれていないためです。誰が葬式費用を負担するかは、控除できる人を踏まえて決めるとよいでしょう。

根拠:相続税法13条1項2号・2項、21条の15、21条の16、相続税法基本通達13-1、13-3

2. 控除できる葬式費用

相続税法基本通達13-4では、次の費用が葬式費用に当たるとされています。

区分(相基通13-4) 内容 具体例
(1) 埋葬・火葬などの費用 葬式や葬送の際、またはその前に、埋葬・火葬・納骨や遺体・遺骨の回送などにかかった費用(仮葬式と本葬式を行う場合は両方の費用) 葬儀社への支払(祭壇・棺・会場使用料など)、火葬料、霊柩車・寝台車の費用、納骨の費用
(2) 施与した金品の費用 葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるもの お寺へのお布施・読経料・戒名料
(3) 葬式の前後の費用 葬式の前後に生じた出費で、通常葬式に伴うもの 通夜の費用(飲食代など)、告別式の飲食代、心付け、タクシー・マイクロバス代
(4) 死体の捜索・運搬の費用 死体の捜索、死体や遺骨の運搬にかかった費用 遺体の搬送費、遺骨を故郷に運ぶ費用

告別式を2か所で行った場合も、どちらも「死者を葬るために行われた儀式」であれば、両方の費用を葬式費用として控除できるとされた事例があります(名古屋国税局の文書回答事例)。

根拠:相続税法13条1項2号、相続税法基本通達13-4

3. 控除できない葬式費用

相続税法基本通達13-5では、次の費用は葬式費用に当たらないとされています。

区分(相基通13-5) 具体例 控除できない理由
(1) 香典返戻費用 香典返しの品物代・発送費 香典は喪主などが受けたもので相続財産ではなく、社交上相当なものは贈与税もかからない(相基通21の3-10)。そのお返しは葬式費用に当たらない
(2) 墓碑・墓地の購入費・借入料 墓石代、墓地の永代使用料、納骨堂の使用料 墓地・墓石は非課税財産であり、葬式そのものの費用ではない
(3) 法会に要する費用 初七日・四十九日・一周忌などの法要の費用 法会は死者の追善供養のために営まれるもので、葬式とは区別される
(4) 医学上または裁判上の特別の処置に要した費用 遺体の解剖費用など 葬式に伴う通常の費用ではない

【注意】墓地や墓石、仏壇は非課税財産のため、生前に購入して代金を支払っておけば、その分だけ相続財産が減ります。一方、相続開始後に購入した場合や、生前に購入していても代金が未払いの場合は、葬式費用にも債務にもならず、控除できません。

根拠:相続税法基本通達13-5(葬式費用でないもの)/相続税法12条1項2号(墓所・霊廟・祭具の非課税)、13条3項(非課税財産の取得のための債務)

4. 判断に迷いやすい費用

実務でよく質問を受ける費用を、通達の区分に当てはめて整理しました。

費用 控除 ポイント
お布施・読経料・戒名料 できる 葬式に際してのお寺へのお礼。領収書がないことが多いため、支払先・日付・金額をメモしておく
心付け(霊柩車の運転手、火葬場の係員など) できる 葬式の前後に生じた通常葬式に伴う出費
通夜・告別式の飲食代 できる 通夜は葬式の前後に生じる通常の費用
会葬御礼(参列者全員に渡すお礼の品) できる 香典の有無や金額にかかわらず渡すものは、葬式に伴う費用。香典の金額に応じた返礼品は香典返しに当たり控除できない
告別式当日に行う繰上げ初七日 原則できない タックスアンサーでは、初七日の費用は葬式費用に含まれないとされています。告別式当日の繰上げ初七日でも法会の性質は変わらないため、内訳が分かる場合は除いて申告するのが安全です
四十九日の法要・会食 できない 法会の費用。ただし、納骨そのものの費用は控除の対象
墓石・墓地・仏壇・位牌 できない 墓碑・墓地の購入費は葬式費用に含まれない
亡くなる前の入院費・治療費(未払分) 葬式費用ではない 被相続人の債務として債務控除の対象
会社が負担した社葬の費用 できない 相続人が負担していない費用は控除できない

【注意】葬儀社の請求書に記載されているものがすべて控除できるわけではありません。香典返しや法会の費用が含まれていないか、内訳を確認してください。お布施などの施与金品は、被相続人の職業や財産などに照らして相当程度の金額に限られます。

根拠:相続税法基本通達13-4、13-5、相続税法13条1項1号(被相続人の債務)

5. 葬式費用は遺産分割協議書に記載不要

遺産分割協議書に葬式費用を記載していなくても、相続税の申告で葬式費用を控除できます。

遺産分割の対象は、被相続人が亡くなったときに持っていた財産(遺産)です。葬式費用は、亡くなった後に相続人などが支出する費用で、被相続人の財産でも債務でもありません。そのため、遺産分割協議で分ける対象にはならず、協議書に記載する必要はありません。相続税法も、「被相続人の債務」(13条1項1号)と「被相続人に係る葬式費用」(同項2号)を分けて規定しています。

相続税では、葬式費用を実際に負担した人が、その負担した金額を自分が取得した財産の価額から控除します。誰がいくら負担したかは、申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」に記載します。

項目 遺産分割協議書 相続税の申告
被相続人の財産(預貯金・不動産など) 記載して分ける 取得した人の課税価格に算入
葬式費用 記載不要 実際に負担した人が第13表で控除

【注意】被相続人の預金から葬儀代を支払った場合も、引き出した預金は相続財産として申告し、葬式費用は負担した人のものとして控除します。支払った預金を相続財産から外してしまうと、財産の計上漏れになります。また、誰が葬式費用を負担したかで相続人の間に認識のちがいがあると、控除する人や金額でもめることがあります。記載は義務ではありませんが、必要に応じて「葬式費用は○○が負担する」と協議書に入れておくと、後のトラブルを防げます。

【預貯金の仮払い制度】令和元年7月1日から、遺産分割前でも、各相続人が一定額(相続開始時の預金額×1/3×法定相続分、金融機関ごとに150万円が上限)まで被相続人の預金を払い戻してもらえるようになりました。葬儀代の支払に使えますが、払戻しを受けた預金は、その相続人が遺産の一部分割で取得したものとみなされます。

根拠:相続税法13条1項1号・2号、相続税法基本通達13-3(負担に属する部分の金額)/民法896条、907条(遺産分割)、909条の2(預貯金の仮払い)

6. 申告書への記載と領収書がない場合

葬式費用は、相続税の申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」に、支払先や支払年月日、金額と、葬式費用を負担した人ごとの負担額を記載します。その金額が第1表の「債務及び葬式費用の金額」に転記され、負担した人の課税価格から差し引かれます。

  • 葬儀社や火葬場など、領収書があるものは領収書を保管しておきます。
  • お布施や心付けなど領収書がないものは、支払先・支払日・金額・内容をメモに残しておくと、申告のときに整理しやすくなります。
  • 複数の相続人が分担した場合は、それぞれの負担額を記載します。

【注意】客観的に確認できない支出や、香典返し・法要の費用が混じったままの控除は、税務調査で否認されることがあります。控除できない費用を含めて申告すると、過少申告加算税や延滞税がかかる場合があります。

根拠:相続税法13条1項、相続税法基本通達13-3、国税庁「相続税の申告のしかた」(第13表の記載例)

7. 根拠法令・通達

項目 根拠法令・通達
葬式費用の控除(無制限納税義務者) 相続税法13条1項2号
制限納税義務者の債務控除(葬式費用は含まれない) 相続税法13条2項
相続時精算課税適用者の債務控除 相続税法21条の15、21条の16
相続を放棄した人が負担した葬式費用 相続税法基本通達13-1
負担に属する部分の金額(実際の負担額) 相続税法基本通達13-3
葬式費用の範囲 相続税法基本通達13-4
葬式費用でないもの 相続税法基本通達13-5
墓所・霊廟・祭具の非課税 相続税法12条1項2号
非課税財産の取得のための債務(控除不可) 相続税法13条3項
香典の贈与税非課税 相続税法基本通達21の3-10
遺産分割 民法896条、907条
預貯金の仮払い制度 民法909条の2

参考(国税庁・法務省)

8. まとめ

  • 葬式費用は、相続人・包括受遺者が実際に負担した金額を、その人が取得した財産から控除できます。制限納税義務者は控除できません。
  • 葬儀社への支払、火葬料、お布施・戒名料、通夜の費用、心付けなどは控除できます。
  • 香典返し、墓石・墓地の購入費、初七日や四十九日などの法会の費用、遺体の解剖費用は控除できません。
  • 葬式費用は遺産分割の対象ではないため、遺産分割協議書に記載しなくても控除できます。負担した人と金額は申告書の第13表に記載します。
  • お布施など領収書がない支出は、支払先・日付・金額をメモしておきましょう。

当事務所では、葬式費用の整理を含めた相続税申告をサポートしております。葬儀社の請求書のどこまでが控除できるか分からないという方も、お気軽にご相談ください。

※本記事は、令和8年10月現在の法令等に基づいて作成しています。個別のご事情により取扱いが異なる場合があります。

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