不動産を売買したときの固定資産税の精算金~売主・買主の税務上の取扱いと精算基準日(12月31日・3月31日)

はじめに
不動産の売買では、売買代金とは別に、買主が売主に「固定資産税・都市計画税の精算金」を支払うのが一般的です。固定資産税は1月1日の所有者に1年度分が課されるため、引渡し後の期間に対応する税額を当事者間で日割りで精算するものです。
なお、「清算」と表記されることもありますが、「清算」は会社の清算など、法律関係を整理して終わらせる場面で使われることが多い言葉です。この記事では、金額を細かく計算して過不足を調整するという意味から、国税庁の質疑応答事例の表記にあわせて、あえて「精算」と表記しています。
この精算金は、名前に「税」と付いていても、税務上は税金ではなく売買代金の一部として扱われます。買主は取得価額に含め、売主は譲渡価額に含めるのが原則です。
また、精算の基準日には、一般的な12月31日基準(1月1日起算)のほか、関西で多く使われる3月31日基準(4月1日起算)があります。この記事では、精算金の税務上の取扱いと、精算基準日による違いを、根拠法令とともに解説します。
【注意】精算金を「固定資産税(租税公課)」として経費にしている例が見られますが、買主が支払う精算金は、貸付用や事業用であっても支払った年の経費にはなりません。
1. 固定資産税の納税義務者と精算金の性格
固定資産税・都市計画税は、賦課期日(1月1日)に固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に、その年度分の全額が課されます。年の途中で売却しても、その年度分の納税義務者は売主のままです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 納税義務者 | 賦課期日(1月1日)に所有者として登録されている人 |
| 課税される税額 | その年度(4月1日から翌年3月31日まで)の1年度分 |
| 納税通知書 | 通常4月~6月ごろに市町村から送付(納期は市町村の条例で定める) |
| 年の途中で売却した場合 | その年度分は売主に全額課税され、買主には課税されない |
精算金は、この課税の仕組みと実際の所有期間のずれを、当事者間で調整するためのものです。法令で精算が義務づけられているわけではなく、売買契約の取決め(取引慣行)として行われます。
そのため、税務上は、精算金は買主が自分の固定資産税を納めたものではなく、売買条件の一つとして支払う売買代金の一部と考えます。国税不服審判所も、平成14年8月29日の裁決で、未経過分の固定資産税等の精算は売買条件の一つであると判断しています。
根拠:地方税法343条(固定資産税の納税義務者)、359条(賦課期日)、362条(納期)、702条・702条の6(都市計画税)
2. 精算の基準日(12月31日基準と3月31日基準)
精算は、引渡し日を境に税額を日割りし、引渡し日の前日までを売主、引渡し日以後を買主の負担とするのが一般的です。その際の1年の区切り方に、次の2つがあります。
| 方法 | 1年の区切り | 主な地域 |
|---|---|---|
| 12月31日基準(1月1日起算) | 1月1日から12月31日まで | 関東など(一般的な精算基準日) |
| 3月31日基準(4月1日起算) | 4月1日から翌年3月31日まで | 関西など |
固定資産税は「令和8年度分」のように、年度(4月1日から翌年3月31日まで)を単位とする税金です。3月31日基準は、この年度と精算の期間が一致します。一方、12月31日基準は暦年で区切るため、年度とは3か月ずれます。
(1) 計算例
年税額(令和7年度・令和8年度)をともに36万5,000円(1日当たり1,000円)とし、売主が令和7年1月1日より前から所有していた物件を、令和8年2月10日に引き渡す場合です。3月31日基準(4月1日起算)では、令和8年度分の全額も買主負担とする契約とします。
| 項目 | 12月31日基準 | 3月31日基準 |
|---|---|---|
| 精算の対象 | 令和8年度分(令和8年1月1日~12月31日で日割り) | 令和7年度分(令和7年4月1日~令和8年3月31日で日割り)と令和8年度分 |
| 買主が負担する期間 | 2月10日~12月31日(325日) | 令和7年度の2月10日~3月31日(50日)と、令和8年度の全期間 |
| 精算金(買主→売主) | 32万5,000円 | 5万円+36万5,000円=41万5,000円 |
| 令和7年度・8年度の売主の実質負担 | 73万円−32万5,000円=40万5,000円 | 73万円−41万5,000円=31万5,000円 |
売主は、令和7年度分・令和8年度分とも納税義務者として全額(計73万円)を納めます。この2年度のうち、売主が所有していたのは令和7年4月1日から令和8年2月9日までの315日(31万5,000円分)です。4月1日起算では、年度と精算期間が一致します。本例では、売主の実質負担が、年度を基準に日割りした所有期間相当額と一致します。
一方、12月31日基準では、売主の負担が40万5,000円となり、年度でみると1月1日から3月31日までの90日分(9万円)を売主が多く負担しています。両年度の年税額が同額、対象年が平年、同じ精算条件という本例の前提では、引渡し日が9月など別の時期でも、この差は同じく90日分です。
本例の条件では、12月31日基準は4月1日起算に比べ、購入時に支払う精算金が少なくなる一方、売却時に受け取る精算金も少なくなります。購入時と売却時の税額や計算条件が同じなら、購入時に軽くなった負担と、売却時に増えた負担が相殺されます。ただし、税額などが変われば、両者は一致しません。また、相続・贈与などで取得し、取得時に固定資産税の精算をしていない場合は、購入時の負担軽減による埋め合わせがなく、売却時に増えた9万円がそのまま売主の負担となります。
(2) 3月31日基準の特徴
- 年度と精算の期間が一致するため、売主の負担が、年度を基準に日割りした所有期間相当額と一致します。ただし、どちらが有利かは、取得時の精算方法や売買価格などにも左右されます。
- 1月~3月の引渡しでは、前年度分の残期間については確定済みの税額で精算できます。一方、売主に課税される新年度分も買主負担とする場合は、その税額が未確定のため、仮精算や確定後の再精算について契約で定めます。
- 12月31日基準では、1月~3月の引渡しだと新年度の税額がまだ確定していないため、前年度の税額で仮に精算することが多くあります。
【注意】精算の基準日に法令上の定めはなく、売主と買主の合意で決まります。契約前に、どちらの基準で精算するかを確認しましょう。また、物件を取得したときと売却するときで精算基準が異なると、所有期間全体での負担も変わります。
3. 買主の税務上の取扱い
買主が支払う精算金は、売買代金の一部です。そのため、用途や取得者にかかわらず、土地・建物の取得価額(取得費)に含めます。支払った年の必要経費や損金にはなりません。
| 区分 | 精算金の取扱い | その後の経費化 |
|---|---|---|
| 個人(家事用:自宅など) | 土地・建物の取得費に含める | 将来売却したときの譲渡所得の取得費(建物分は減価の額を控除) |
| 個人(貸付用:賃貸アパートなど) | 土地・建物の取得価額に含める | 建物分は減価償却費として不動産所得の必要経費。土地分は売却時の取得費 |
| 法人 | 土地・建物の取得価額に含める | 建物分は減価償却費として損金。土地分は売却時の譲渡原価 |
(1) 土地と建物への按分
精算金は、土地分と建物分に分けてそれぞれの取得価額に含めます。固定資産税の納税通知書などで土地・家屋ごとの税額が分かれば、その税額の比で按分するのが合理的です。
(2) 買主自身の固定資産税との区別
買主が納税義務者となるのは、引渡し後に初めて迎える1月1日を賦課期日とする年度分からです。その年度以後の固定資産税は、貸付用なら不動産所得の必要経費、法人なら損金になります。
【注意】賃貸アパートや事業用の建物を購入した年に、精算金を「租税公課」として経費に計上している例があります。買主はその年度の固定資産税の納税義務者ではないため、精算金は買主の租税公課には当たりません。取得価額に含め、建物分は減価償却を通じて経費にします。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁質疑応答事例「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の精算金の取扱いについて」)
根拠:所得税法37条(必要経費)、38条(譲渡所得の取得費)、49条(減価償却資産の償却費)、所得税法施行令126条(減価償却資産の取得価額)、法人税法22条、法人税法施行令54条(減価償却資産の取得価額)
4. 売主の税務上の取扱い
売主が受け取る精算金は、売買代金の一部として譲渡価額(譲渡所得の収入金額)に含めます。一方、売主が納める固定資産税は、売主自身の租税公課です。
| 区分 | 受け取った精算金 | 売主が納める固定資産税 |
|---|---|---|
| 個人(家事用:自宅など) | 譲渡所得の収入金額に含める | 必要経費にも取得費にもならない |
| 個人(貸付用:賃貸物件など) | 譲渡所得の収入金額に含める | 全額が不動産所得の必要経費(物件全体を貸付用としている場合) |
| 法人 | 譲渡対価として益金に算入 | 全額が損金 |
(1) 貸付用の場合の注意点
貸付用の物件を売った場合、売主はその年度の固定資産税を全額不動産所得の必要経費にし、受け取った精算金を譲渡所得の収入金額に含めます。精算金を固定資産税から差し引いて、経費を減らす処理にはしません。
ここでは、賦課期日に物件全体を貸付用として使用していた場合を前提としています。家事用部分を含む場合などは、必要経費となる範囲を別途確認します。また、固定資産税を必要経費に計上する時期は、原則として賦課決定のあった年です(各納期の開始日や実際の納付日の属する年とすることもできます)。
不動産所得は総合課税、土地・建物の譲渡所得は分離課税のため、どちらで処理するかで税額が変わることがあります。
【注意】家事用の自宅を売った場合も、受け取った精算金は譲渡価額に含めます。売買契約書の売買代金だけで譲渡所得を申告すると、収入金額が少なくなります。精算書や領収書で金額を確認しましょう。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞国税庁タックスアンサーNo.3214 土地や建物を売ったときの譲渡価額、国税庁質疑応答事例「未経過固定資産税等相当額の取扱い」)
根拠:所得税法26条(不動産所得)、33条(譲渡所得)、36条(収入金額)、37条(必要経費)、法人税法22条、国税不服審判所平成14年8月29日裁決
5. 消費税の取扱い
消費税でも、精算金は売買代金の一部(資産の譲渡の対価)として扱われます。売主が課税事業者であり、事業として建物を譲渡する場合、建物分の精算金は課税売上げに含まれます。個人事業者でも、私生活で使用していた自宅の売却は、事業としての取引には当たりません。
| 区分 | 売主(課税事業者) | 買主(課税事業者) |
|---|---|---|
| 土地分の精算金 | 非課税売上(土地の譲渡の対価) | 非課税仕入れ |
| 建物分の精算金 | 課税売上(建物の譲渡の対価) | 課税仕入れ(建物の取得価額に含める)。仕入税額控除の可否は、建物の用途、居住用賃貸建物に係る制限、インボイス等の保存要件などにより判定 |
売買代金とは別に受け取っていても、建物分の精算金を含めた金額が建物の譲渡の対価です。土地と建物を一括で売った場合は、精算金も土地分と建物分に分けて考えます。
【注意】名義変更が遅れたために、本来は買主が負担すべき年度の固定資産税が売主に課され、その税額相当額を買主から受け取った場合は、譲渡の対価には当たらないとされています。通常の日割り精算とは取扱いが異なります。
詳しくはこちらをご覧ください。(☞消費税法基本通達 第10章 課税標準及び税率(10-1-6 未経過固定資産税等の取扱い))
根拠:消費税法6条・別表第二第1号(土地の非課税)、28条(課税標準)、30条(仕入れに係る消費税額の控除。居住用賃貸建物の制限は同条第10項)、消費税法基本通達10-1-6
6. 実務上の注意点・根拠法令一覧
(1) 実務上の注意点
- 精算基準日を契約書で確認する:12月31日基準か3月31日基準かで、精算金の額が大きく変わります。特に、関西の物件や地域をまたぐ取引では、事前に確認しましょう。
- 1月~3月の引渡しは精算の方法を決めておく:新年度の税額はまだ確定していないため、前年度の税額で精算するのか、確定後に再精算するのかを契約で定めます。
- 都市計画税も精算の対象にするか確認する:一般には固定資産税とあわせて精算します。税務上の取扱いも同じです。
- 土地分と建物分を記録しておく:取得価額の按分や消費税の計算に使うため、精算書に土地・家屋ごとの金額を記載してもらうと安心です。
- 売却時の申告で精算金を漏らさない:売主は、売買代金に精算金を加えた額を譲渡価額として申告します。
【注意】精算金は、不動産取得税や登録免許税の課税標準には影響しません。これらの税金は、固定資産税評価額などを基に計算されます。
(2) 根拠法令一覧
| 区分 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 地方税法 | 343条、359条、362条 | 固定資産税の納税義務者、賦課期日、納期 |
| 地方税法 | 702条、702条の6 | 都市計画税の課税客体・賦課期日等 |
| 所得税法 | 26条、33条、36条 | 不動産所得、譲渡所得、収入金額 |
| 所得税法 | 37条、38条、49条 | 必要経費、譲渡所得の取得費、減価償却 |
| 所得税法施行令 | 126条 | 減価償却資産の取得価額 |
| 法人税法・同施行令 | 法人税法22条、法人税法施行令54条 | 益金・損金、減価償却資産の取得価額 |
| 消費税法 | 6条・別表第二、28条、30条 | 土地の非課税、課税標準、仕入税額控除 |
| 消費税法基本通達 | 10-1-6 | 未経過固定資産税等の取扱い |
| 裁決 | 国税不服審判所平成14年8月29日裁決 | 未経過固定資産税等相当額は売買条件の一つであり、譲渡所得の収入金額に算入 |
7. まとめ
- 固定資産税は1月1日の所有者に1年度分が課され、年の途中で売却してもその年度分の納税義務者は売主です(地方税法343条、359条)。
- 買主が支払う精算金は、売買条件の一つとして支払う売買代金の一部であり、税金(租税公課)ではありません。
- 買主は、精算金を土地・建物それぞれの取得価額に含めます。貸付用・事業用の建物分は減価償却を通じて必要経費・損金となり、家事用の建物分は将来売却する際の取得費の計算に反映されます。
- 売主は、受け取った精算金を譲渡価額に含めます。貸付用(物件全体を貸付用としている場合)なら、納めた固定資産税は全額が不動産所得の必要経費です(所得税法36条、37条)。
- 消費税では、売主が課税事業者であり、事業として建物を譲渡する場合、建物分の精算金は建物の譲渡の対価に含まれ、課税売上げになります(消費税法基本通達10-1-6)。
- 精算基準日は、12月31日基準が一般的ですが、関西では3月31日基準も使われます。4月1日起算では、固定資産税の年度と精算期間が一致します。本例では、12月31日基準の方が売主の負担は9万円多くなります。ただし、所有期間全体での負担は、取得時の精算方法や取得・売却時の税額などによって異なります。
- 精算基準日は当事者の合意で決まるため、契約前に基準日と精算の方法を確認しましょう。
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